森の奥底にある暗黒に包まれた紅麗の館。その館までの長い道のり。戦闘の素人とでは走ることは愚か歩くのも困難な、暗い暗い道。その道を一人の少年が走り抜けようとしている。

その少年の名は小金井薫。紅麗率いる麗のメンバーで五つの顔を持つという、火影魔道具鋼金暗器を武器としている。

今、館の扉が小金井によって開かれた。

「ただいま!」

小金井は、そのまま館の奥へと進む。だが、それはある男によって妨げられた。

「こら、小金井」

「ら、雷覇!?」

その男は雷覇。小金井同様、麗のメンバーで十神衆の一人。武器は雷属性の火影魔道具雷神。

雷覇は小金井に近づくと軽々と首の根をもち上げる。その時の小金井の姿はまるで小動物いやはや、猫のようだった。

「小金井!部屋に戻る前に行かなければならない所があるでしょう?」

雷覇は洗面所に向かう廊下を指指す。その動作に小金井は苦笑いをこぼす。

「あははっ……分かったよ。」

「それでよろしい。手を洗ったら広間に来て下さい。おやつありますから。」

ストッと地面に降ろされ、安心に胸を撫でおろす。雷覇はそんな小金井の姿に笑みを零す。そんな雷覇にに対して小金井は母親の影と重ねた。

「雷覇ってさ、」

「……?何か?」

「んや、何でもな〜い。」

喉まで出かけていた、この感情を飲み込み、心の底にしまう事にした。男が母親みたいと言われて気分のいい人はいないだろうと考えた。

小金井は、そのまま洗面所へと廊下を走りだした。

「小金井!」

「何?」

小金井は向かっていた方向から雷覇の方へと振り返る。雷覇はいつの間にかすぐ後ろにいて、ここ…怪我してますよと、小金井の赤く擦れたような傷をもつ肘を指指す。

「えっ、?あ、本当だ。何処かでこすちゃったのかな?」

「ちょっと待って下さい。」

そう言うと雷覇は自分の懐から何かを捜すかのように漁り始めた。

「あっ、ありました。」

ペタッと懐から出した物を小金井の肘にはる。だが、肘という事もあり、位置が悪く小金井からは何を貼られたのか、全く見えない。

「何、貼ったんだよ?」

「あはは、絆創膏ですよ。」

「あ、ありがとう。」

「いえいえ」

ニコッと効果音が聞こえるようなとびっきりの笑顔に小金井は気恥ずかしさを混ぜた笑顔で返す。その時小金井のお腹がグッーと音をたてる。自分のお腹の音に小金井は、あっ、と声を漏らすが雷覇はあまり気にしまない様子。

「おや?お腹の方はそろそろ限界ですか?さ、おやつにしましょう。手を洗ってきて下さい。」

「う、うん。」

そして、小金井は走っていく。その後ろ姿をみて、雷覇は、ハッとする。

「あの絆創膏…………」

小金井は知らない。クマのキャラがプリントされた絆創膏が自分の肘に貼られていることに……。知っているのは、絆創膏を貼った張本人とのプリントされているクマだけ。



END

(熊の絆創膏)





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