俺はあいつが気に食わない。俺のたった1つ上の、もしくはされど1つ上と言ったほうがいいのか。俺にとって先輩であって先輩と呼ぶことないのない先輩。目立つ赤茶の髪に、あのムカつくべらめェ口調。とにかく俺はあいつが気に食わない。 今日は、俺たち二学年と1つ上つまりはあいつのいる三学年との合同演習がある。俺自身あまり乗り気ではなかったが、理由もなしに休むことなどできるはずもなく、仕方がなしに集合場所、裏裏山の麓へと向かう。 「えー今日は、二学年・三学年の合同演習だ。二と三で組を作り、一人二組になってもらい、その組で頂上を目指して貰うす。ただし、この山の中のどこかに隠されている巻物を見つけだし、それを持ってくるのが条件だ」 俺は先生方の説明をききながら小さな笑みを零す。これくらいの演習なら誰と組もうがすぐに終わるだろうと考えたのだ。 「よーし、組はくじで決めて貰う。ここにくじがあるから順番に引いていけ!」 組が出来次第出発してくれ、頂上で待つ、という言葉を残し先生方は姿を消した。 くじを引き、手に取った四つ折にされた紙を慎重に開く。中に書かれし数字は、3。 「同じ数字の奴を探せばいいんだよな。」 俺は3と書かれたくじを手に握りしめ、周りを見る。どうやら何組かはもう出発したようだ。始めるよりも人が少ない。自分も遅れはとれないと、ペアを探し始めた。そんな時、あいつが俺の目の前に立ち塞がった。 「お前、邪魔何だけど」 「てめぇ、先輩に対してなんちゅー口の聞き方しやがる。先輩をつけろ、そして敬語を使え。」 「ふん。つける必要なんてないと思うけどな。」 「ふざけやがって」 一時ながら会話が途切れる。そんな空気を壊すようにあいつが口を開く。 「所で一応聞くが、お前何番だ?」 「………3」 素直にそう答えると、小さなため息をついてからそんじゃあ行くかといってきた。 「ちょ…いくかって…お、お前」 富松は俺の言葉にならない言葉に答えを返すかのように、手にあったくじを俺の目の前へと突き出してきた。そのくじに書かれし数字は3。 「よりによって、」 「それはこっちの台詞だ!」 互いに同じ数字。つまりは組と言うこと。背中に嫌な汗が伝うのがわかる。だが相手は目に見えて気にしていない様子。でもどこか納得のいかない、そんな顔をしていた。どこを見ているのか目はどこか遠くを見つめている。まるで目の前にいる俺なんて眼中にないかの様に。 俺はこの時心臓部がズキッと痛むのを感じたのは気のせいではないと思う。 「いくぞ」 あいつの呼び掛けに俺は若干目を伏せ気味に返事をする。 山の木々たちの間を素早く駆け抜ける。俺の目の前を走る富松。流石三年生と言うべきなのだろうか?走るスピードも、所々に仕掛けれしトラップの避けかたまで、俺よりもずっと上だった。二と三。たった一年でここまで差をつけられると、無性に悔しくて思わず奥歯を強く噛み締める。 あぁ、まただ。この時また心臓部がズキッとなったのを感じた。 「止まれ」 いきなり富松の動いていた足が止まり、俺の前に腕が伸ばされる。ここで俺の足、そして思考までもが急停止する。 「ど、どうしたんだよ!」 「あれ、見ろよ」 富松が指さす先をみれば、うまい具合に気に引っかけられている巻物がある。 「簡単に見つかってよかったな。問題はあそこまで、どう行くかだ」 富松は少し悩む様に眉間にシワを寄せ、自分の顎に手をあてる。確かに易々と行けるような領域ではない。トラップだってあるだろうし、何より足元が不安定だ。だが、ここで諦めたらなら、また探しに走り回らなくてはいけない。 「俺がとってきてやるよ」 気がつけば口だけが先走っていた。どうして俺がこんなことを言ったのか自分自身でもいまいちわからない。もしかしたら俺はただこいつに認めて貰いたいだけなのかもしれない。そんなことを考えている自分が可笑しくなり思わず口元に小さな三日月状の弧を描いた。 道なき道を進んでいく。地面が抜かるんでいて、思う様に足が進まない。後ろで富松が何かを叫んでいる様だが今は無視だ。少しずつ慎重に進んでいく。 「とれた!やったとれたぞ!」 俺は上半身だけを後ろに向け、巻物を富松に見せ付ける様に持つ。富松は安心した様にため息をつく。俺は戻るため、また道なき道を歩き始めた、その時足が地面に浸かってしまい、足が動かなくなった。 「おわっ!」 俺はバランスを崩してしまう。俺が倒れる先にはあるはずの地面がなく崖となっていた。 「あぶねー!!!」 パシッー、 「ハァ………あぶなかったな」 このまま崖下まで落ちると思った。でも落ちっていったのは、俺ではなく俺の足元にあった小石達が下へ下へと落ちていった。上を見れば、俺の手を富松が掴んでいた。 「な、何でだよ!」 「知らねえーよ。勝手に手が出ちまったんだ。」 そういうと、富松は力一杯に手を引き、上へと上げた。 何で…何でなんだ。俺の目から自然と雫が流れ落ちていく。 「な、何だよ。そんなに怖かったのか?それともどこか…」 富松が慌てた様子で聞いてくる。俺は、首を横にふる。 「知るかよ…っ」 嗚咽が込み上げてきて上手く言葉が発せない。そんな俺の体を富松は割れ物扱うごとく優しく包み込んでくる。背中は一定の間隔で叩かれる。 「大丈夫だ…もう大丈夫」 富松は俺に言い聞かせる様に語りかけてくる。俺は思わず富松の服の裾を強く握りしめ、頭を胸板へと預けた。続いていた嗚咽も段々に治まり始める。 「………笑わないのか?」 「何を、だ?」 「いや、………泣いた事とか…」 「…笑わねーよ、別に」 今更泣いたことが恥ずかしくなり、つい口ごもってしまう。だが、富松はたいして気にしてないような顔で答えた。 「誰だって涙が出ちまう時くらいある。………俺だって今だ泣いてたりするしな」 「……俺、別に死ぬことが怖くなって泣いたわけじゃないって言ったら嘘になるけどよ。………もしかしたら、俺は……ただ悔しかったのかもしれない」 「悔しい?」 富松は、不思議そうに俺の言葉繰り返す。 「……悔しいんだ。今日改めて俺とお前の実力差を知って。俺とお前は一年がすごく大きな壁に感じちまって。ムキになって、ただ認めてもらいたくて。……相手にされていないと思うとすごくく悔しく、…て…、もう喧嘩も吹っ掛け…ない…様にしよ……かと」 さっきまでおさまりつつあった嗚咽がまたも込み上げてくる。零したくない涙がまたも頬をつたう。そんな俺を見てか富松の俺を抱きしめる腕が強くなる。 「笑いたきゃ……笑えよ」 「笑わねーよ。あのなぁお前勘違いするなよ。俺が実力を上げられた理由のは、池田お前だ。俺さお前によく絡まれるだろ、そん時にさ、お前にぜってー先輩だって認めさせてやると思って猛特訓したんだ…そうだな、俺もよく考えたらお前にただ認めてもらいたいだけっだたのかもな。」 「俺と同じ………」 「そういうことだ。とにかくだ。これからもお前は普通でいいんだよ!じゃないと………」 富松の言いたいことがよくわからず俺は顔を上げ首を傾げる。 「っ……だから、お前はこれからも普通…いつも通り絡んでくればいいんだよ、じゃないとこっちが調子がくるっちまうんだよ!」 富松は恥ずかしそうに赤らめた顔をそっぽ向け今まで俺を抱いていた手を自分の首におく。 「…しょうがないな、俺がいないと駄目か?」 「ちげーよ、!つかいきなり調子を戻すな!!…………たくっ、ほら行くぞ」 富松は立ち上がり、俺に向かって手を差しのべてくる。俺はその手をとり、立ち上がろうとするが左足首に痛みを感じる。どうやらさっきの崖から落ちかけた際に痛めたようだ。 「大丈夫かよ……やっぱり捻ってやがったか、世話のかかる後輩だよ」 そういいながら、自分の頭につけてた頭巾をとり、俺の足へと巻き付ける。迷惑そうに嫌みを並べる富松だったが、顔はいつもより穏やかにみえた。 「よし、これで大丈夫だ。…ってこれじゃぁ歩けねェよな。よしっほら」 そう言うと富松は屈み込みこちらへと背中を向けてくる。 「な、なんだよ」 「何って、おんぶだよ、おんぶ!歩けねーだろうが」 「…わりー」 恥ずかしいが今の自分には歩く事も叶わない。富松の背中に自分の体を預ける。 「よし、再出発だな」 「よろしく頼むよ…富松先輩」 富松の背中、暖かい。こいつの足が動く度に体が揺れる。今は凄く心地好い。どうせ、叶わない恋なのだ。どうか…どうか頼むよ神様。俺にこいつとの過ごす幸せな時間を一分でも一秒でも長く………長く END (恋の始まりと終わり) |