ある日の昼過ぎ、僕の仕事場のパソコンに一通のメールが届いた。本文を読む前に送り主を確認する。八神太一、この名をみた瞬間僕の心臓はいっきに高鳴り始める。

【ごめん。急な仕事が入って行けない。】

だがそんなものはすぐに治まる。彼からのメールは余りにも簡潔で忙しさが伝わってくる。大きくため息を一つついてから、開かれた窓から流れる雲を見つめる。

お互いに忙しくてあえないのはわかる。ならばせめて電話で声を聞きたい。けれどきっと今の僕は貴方の声を聞けば泣いてしまうから。

先月は自分の仕事の都合で会えずじまい。前はあったのはいつだったろうか、わからない太一さんの温もりを思い出し自分の腕で自分を抱きしめる。


「………太一…さん」

『光子郎…愛してる……』

「…愛してる…愛してる…」

貴方が僕に伝えてくれた言葉を繰り返しながら、何度も呟き自らをギュッと強く抱きしめる。

「…メールの返事をしなきゃ…」

使い慣れたマウス動かしながらカーソルを合わせ、手慣れた作業でキーボードで文字を打ち込む。


いいんですよ。
お仕事頑張って下さい。
無理しないで下さい。
気にしないで下さい。お疲れ様です。

大丈夫ですよ。


何度も打っては消すメッセージ本当の自分の気持ちを上手く書くことができない。大丈夫ですよ。か、自分でも何が大丈夫なのかわからない癖にどうしてもこうした表面的な文字が流れてしまう。


僕が伝えたいのは……

「………会いたい。今、すぐに」

自然と目から涙が零れおちた。
「…グス……うっ」

流れゆく涙を拭ってくれる優しい手は今ここになく更に涙は零れおちていく。

「……会いたいです………太一さん。」

パソコンの隣にある電話が誰からかの着信を告げる。画面を見つめれば国際電話という表記がされていた。もしやと思い急いで受話器をとる。


「……も、もしもし」

『………光子郎か?』

聞き慣れた愛おしい声に思わず瞼が熱くなる。

「……太一さん…何で?」

『何でだろうな、謝りたかったのもあるけど、何か光子郎が泣いているような気がして………さ』


涙を我慢しようと何度も何度も下がり始めた頬の筋肉に力を入れるが、優しい声に我慢できずに後から後から涙が溢れてくる。

「……太一さん」

『…ん?』

「…会いたい……です。」


一言告げてしまえばもう想いを止められなく嗚咽と共に何度も何度も会いたいと言葉を繰り返してしまう。電話の向こう貴方はそのたびにうん、と優しく相槌を打ってくれた。そのうちに、会いたい繰り返す僕に貴方は囁いた。


『わかった。今すぐあいに行くからよ』

太一さんはそれだけをいうと待ってろよ、と最後に付け足して電話をきった。貴方にあったなら思い切り抱きしめたい。


END


(会いたくて切ない)





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