こんにちは、山崎退です。
今日は真選組(つーか俺)の、秘められた悩みについてお話したいと思います。
まず朝。俺は沖田隊長の部屋へ起こしに行きます。
『…失礼します、沖田隊長。朝で』
『んー山崎…もうちょい寝かせろィ…』
『あー山崎、俺が連れてくから先に朝飯食ってていいぞ。…ほら総悟、起きろ』
裸で布団に包まっている二人。
正直――――目の毒だ。
『土方さんがちゅーしてくれたら起きてあげまさァ…んー』
『馬鹿、そんなことするか!さっさと…ん、んんっ』
俺はそっと障子を閉める。中からは、
『馬鹿総悟っ、山崎に…』
『構わねぇでしょ、今更隠すことでもねぇし』
『そういうことじゃなくて、恥ずかしいか、ら…んぅっ』
(ごそごそと布団が動く音)
などなどが聞こえてくるので、無視して食堂に向かう。…朝から泣きそうなのは気のせいじゃない、多分。
昼。やっと食堂に来た副長と沖田さんは、当然のようにいちゃつき始める。
『あ、土方さんその煮付け旨そうですねィ』
『ん?一口食うか?』
あーん、て…周りの雰囲気も少しは察してほしい。
新入りなんか味噌汁こぼしてるじゃないか。
『あ、旨い…じゃあこの人参あげます』
『好き嫌いするな』
二人共食べることに集中したのか、会話が無くなる。
食堂内の空気も、心持ち緩んだ。
―――短い間だけ、だったけど。
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『総悟、ケチャップついてる』
『え、どこでィ?…取って下せェ』
『ったく…』
沖田さんの口元のケチャップを、丁寧に拭いてあげている副長。
けど俺は、沖田さんが態とやっていることを知ってる。
ばれないように日数を開けてまで――よくやるよなぁ…
『あー、土方さんもマヨがついてまさァ』
『ん、どこに』
『ここでさァ』
ぺろり、と土方さんの唇の端を舐めた沖田さんに、食堂内の空気が再び固まる。
(お願いだから余所でやって下さい…!!)
『っテメ、総悟!…ばか…』
『だって拭くより早いですし』
真っ赤な顔の副長。可愛いとか、思わなくもないけどさ。
『今度はそっちの魚下せェ』
『お前な…こっちの定食にすりゃ良いだろ』
『違いまさァ、土方さんのが良いんですよ』
その言葉に、副長の表情がちょっと緩む。
『さっき煮付けやっただろ……これで最後、だからなっ』
うわー副長見事なまでのツンデレっぷりだー…いたたまれないなぁ…
『おいしーでさァ』
俺達には決して向けることの無い笑顔。沖田さんが数段幼く見える。
…だから組内でも根強い沖田受け派が残ってるんだよ…
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まぁなんやかんやあって、夜。
…ぶっちゃけ、これからが一番辛い。
昼間はそれでも仕事が有るし、沖田さんはともかく副長は真面目だから仕事に励んでいる。
けど夜は――――
『…まだ9時だし、大丈夫だよ…な』
報告書と証拠資料一式、副長室へ持って行く。
沖田さんとの甘い時間を邪魔すれば、後でどんなことをされるか(主に沖田さんに)…
監察としての技がすごくありがたい。
…つーかホームなのに一番忍としてのスキルが上がるって…悲しすぎないか。
『…』
そっと聞き耳を立てると、カリカリとペンの走る音が聞こえるだけだ。
『失礼します。副長、この間の件の報告書と資料です』
『あぁ、ご苦労。…やっぱり政府の上が一枚噛んでやがったな…』
『揉み消されますかね』
『どうだか…まだ分からん。一回とっつぁんに上げないと、な』
腕を組んで煙草をふかす副長は、正に仕事の出来る男!って感じで格好良い。
『副長、何か夜食でも持って来ますか?お腹空きません?』
『んー…じゃあ軽い物頼む。それ終わったらお前は上がりで良いから』
『はい』
今日は沖田さん来ないのかもな…と後ろを向くと、
無表情の沖田さんが立っていた。
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『うわぁああ!!?ホラーかァァァ!!』
『うるせぇな山崎…気付かねぇお前が悪ィ』
『何で完璧に気配消すんですか!何で無表情なんですか!リアルに一瞬心臓止まりました今!』
うるせーなぁ、と言いながら部屋に入ってきた沖田さんは、
『夜食。俺の分も込みで3分以内に持ってきやがれ』
と言うと、土方さんに抱き着いた。
『仕事終わんねーんですかィ?』
『ん、ほら…もう少しだから、離れろ』
部屋の空気が一気に甘ったるくなる。…酔いそうだ…
『あと2分』
『ええ!?無理ですよ!』
とりあえず食堂に急ぐ。
あのまま部屋に居たら…多分泣くな、俺。
『…サンドイッチとかでいいかな』
軽食はいつも冷蔵庫に入っている。
局長や副長、隊長陣のための措置だ。
『はぁ…いちゃついてないといいな…』
再び、障子を開ける。
―――――そして閉める。(あれっデジャヴ!)
『夜食、ここに置いておきますね〜』
『あっ山崎!馬鹿、総悟離せって!……ぁうっ』
何も見てない聞いてない。ちょっとオー人事に電話したいとか思ってない。
…以上です。俺達がどれだけ大変か、分かって頂けました?
え、替わりたい?駄目ですよ、覗いたりしたら沖田さん怒っちゃって大変ですから。
後ろ?―――やだな後ろに
※音声途絶
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『ここからは何事も無かったかの様に俺と土方さんのスーパーいちゃいちゃタイムでィ。』
『これ以上砂吐きたくない奴は入って来んなよ』
『…つーかいちゃいちゃなんか…俺、そういうの苦手だし』
既にほんのりと紅い土方の頬を、沖田は両手で包んで上向きにさせる。
『無理に慣れなくても、俺がリードしてあげまさァ』
『…お前にリードされるなんざ、俺のプライドが許さねぇ…』
『またまた〜、いっつも俺のリードでよがり狂ってるくせに』
ばっ、と首まで朱に染めた土方は、沖田を突き飛ばして背を向けた。
その背中を見て沖田はにやけているが、土方は知る由もない。
『…怒っちゃいやした?』
耳元で低く囁く沖田に、土方の肩はびくりと跳ねる。
『返事くらいしてくれねぇと…悲しいでさァ…』
態とらしく首筋に息を吹きかけられ、土方の髪の毛はふるふると震え出している。
『ねぇ土方さん、俺のこと―――』
『…ッも、やめろっ』
耐え切れずに沖田の方に向き直った土方に、沖田は
可愛くてしょうがない、というような笑顔を浮かべた。
『もう怒ってないんで?』
『…怒ってないから…そういうことすんな』
うぶな反応を楽しむように、沖田は土方を抱きしめる。
『でも怒らしちゃったから、お詫びでさァ』
『…良いって、お詫びなんか…ん、んんっ』
『…ご機嫌直りやしたか』
『直るかばかやろ……もっかいしやがれ』
『―――あんたほんと、可愛いお人でさァ…』
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