あおい夜だ。黒というよりはあおい。青色をしている。響きはとても物騒だけれど、容貌だけみればうつくしい。
僕はそんな中ただひとりでいる。僕はひとりだ。隣にはだれもいなかった。いない。だれがだ。
「 」
呼ぶ声は音にならなかった。まるで青に呑み込まれてしまったように静かだ。
ああ、おかしい。
なにかに捕われてしまったような感覚に警戒して、ベルトにかけた銃を一丁取り出す。気を張ったまま辺りを見回すがなにもない。
細く息をはく。と、反対に酸素を吸い込む音がして、反射的にそちらへ銃を向けた。
「誰だ」
先程とは違い簡単に音になった声に少しばかり驚く。意識は全て気配の方向に向けたまま、視線は辺りへ巡らす。他にはなにも見当たらなかった。
「………」
「誰だ」
再び問いても返ってくるものはない。怪訝に思いながらなにか違和感を感じた。
「さあな」
唐突に吐き出されたそれはひどく聞き慣れた音だった。
「…なんだ。 か……………?」
そのひとの名だけが音にならなかった。何度繰り返してみても音にならず果ててゆく言葉に焦りがつのる。
「 !」
「俺の名前はなんだ?」
落とされた音に反応する。名前、名前が呼べないというのに。ああ。
「名前は」
俺の、名前は?
なまえ?
あおい夜にあおい炎がとぼる。ひどく冷たい色をしたそれはきっと、なにもかもを燃やし尽くすほどの恐怖だ。
「名前」
名前。なまえ。
なまえを呼ぶのは僕、なのかぼく、なのか。
燐。
あおい炎が燃えている。