弟はひねくれていると思う。やたらと素直でないことばかり口にしたりする上にスパッと謝れないし、何だかんだ難癖をつけてさも「自分は悪くないです」なんて顔をするくせに本心では自分を責めている。本当に面倒くさいやつだ。ただ、そういう俺も弟と同じくひねくれていることは自覚済みだった。嫌なところばかり似るのは兄弟の宿命なのだろうとぼんやり思っている。ひねくれ者が揃っているのだ、二人っきりでまともにお祝いなんて出来るはずがない。
去年まで修道院のみんながクリスマスとまとめてお祝いしてくれたように、今年は塾のみんなで集まってクリスマスパーティーをした。俺が「誕生日は雪男と二人でお祝いしたいから」というとみんなブラコンだなんだ笑いながら了承してくれて、そのとき一緒に誕生日のお祝いもしてくれた。あんな風に祝ってもらえるなんて思っていなくてなんだか気恥ずかしかったけれど、ああこれが仲間なのかなんて考えて嬉しくなる。今思い出してもにやにやしてしまうのだからあのときはもっとだらしない顔をしていたんだろうなあと思う。
で、雪男だけれど。
アイツはとにかくひねくれている。俺が二人で祝うためにわざわざ誕生日を空けたっていうのを知ってて任務を入れた。アイツが行く必要のない軽い任務に無理矢理就いたみたいだ。全く素直でない。それに何の文句も言わなかった俺も俺だけれど。
イライラして一週間分の食費を全部注ぎ込んでホールケーキを作った。イチゴからクリームから何から何まで高級食材のオンパレードだ。自分でいうのも何だけれど見た目にもかなり美味そうに仕上がった。デカイし。ただ、ケーキの材料を買うので金を使い切ってしまって他に料理はない。食堂の机にどんと大きなケーキが一つあるだけだ。なんだかわびしい。せっかくの立派なケーキなのに。
時計はもうそろそろで12時を指すころだ。もう俺たちの誕生日が終わってしまう。ここ数日ケーキの作り方を必死に勉強した俺の苦労もおいしそうに出来たケーキも塾のみんなの気遣いも全部無駄になる。俺はひとつ深いため息をついて包丁を持った。立派なケーキにすうっと切り込みを入れる。あーあ。これ一人で食べんのか。さすがに全部はつらい。でも雪男に食べさせる気にもならない。

「……兄さん」
「……なんだよ」

扉のところにいつの間にか雪男がいた。入り口にぽつんと立っていられるとものすごく気になる。気配がなくて幽霊みたいだし。雪男はなんだか泣きそうな顔でこっちを見ている。知るか。

「……にいさん、ごめん」

まさか雪男が謝るなんて思っていなくて面食らってしまった。「え、あ、…あー」なんて意味を成さない言葉が漏れる。

「…これ、買ってきたから……一緒に食べよう?」

雪男から受けとったビニールの袋の中には大きな七面鳥が入っていた。明らかにクリスマスの残り物だ。

「…これじゃクリスマスだろ」
「だ、だって…安くなってたから」

気まずそうに目を逸らすのを見て思わず吹き出した。なんだこれ、馬鹿らしい。雪男はちょっと心外そうにじとりと横目で見てきたけれど俺と同じように吹き出した。二人してひいひい言いながら笑う。笑いがとまらない。時計はピッタリ12時を指していてあんなにこだわっていた誕生日は終わってしまった。それでも笑いすぎで赤くなった顔で、揃って言う。


「「誕生日おめでとう」」


お前がいてよかったって、言う。





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