どちらにしようかなってあるだろ、それのノリだ。どちらにしようかなで選んでこっちになったってだけの話であって俺は全然考え込んだりしなかった。考え込んだりしなかったさ。
雪男は複雑そうな顔で「…まあ運も実力のうちだよね」と言った。それって使い方微妙に違う気がするけれどいいのだろうか。頭の良い雪男が言うのだからそうなのか。いいや、俺は雪男との距離(兄弟としてじゃないやつ)が近くなって最近ようやく雪男は万能じゃないって気がついた。もちろん料理ができないこととかは昔から知っていたけれどそういうのでなくてもっとこう、感情的な話だ。
志摩は「なんや腑に落ちませんわあ」と言っていたけれど相変わらずへらへらしてた。ただ諦めるつもりは全くないようだ。奇遇だな、俺もこの状況に納得いってない。いや、どちらにしようかなが悪いんじゃなくてこの状況。男二人(しかも片一方は弟)に言い寄られたこの状況。どちらか必ず選べって言われたこの状況。どっちとも付き合うつもりはないんですが。それでも俺に拒否権はなかった。ちょっと、ここで「男と付き合うとかないわ」なんて言ったら死ぬと思ったからだ。苦肉の策で「神様の言ーうーとーおーり」、だ。神様が本当にいるかは正直疑問だけれど。
俺と付き合うことになった(らしい)雪男はいつも以上に俺に笑顔を向けた。大半は前と変わらない笑顔だったけれど、その目の奥にはたまに情欲が混じっていて酷い悪寒がした。あからさまに「こいつ今夜犯してやる」って顔に書いてあって恐ろしい。そういう日はこっそり勝呂たちのとこに逃げ込んだ。勝呂は迷惑そうな顔をしながらもなんだかんだで受け入れてくれて、コイツってホント良いヤツだよなあとか毎回思っていた。志摩は勝呂のとこに逃げ込む俺をニヤニヤしながら見ていて、あ、コイツも危ないヤツだとまた悪寒が走ったので夜は子猫丸と勝呂の間で寝た。志摩も流石に二人の前では手が出せないようで何もしてこなかったけれど、このままだといつか掘られると思う。次からはどこに逃げ込めばいいんだ…。とりあえず勝呂か子猫丸は一人暮らし(というより志摩を隔離)するべきである。
俺が勝呂たちのとこに泊まった次の日の雪男はあからさまに機嫌が悪い。隠そうともしない。ものすごく悪い目つきで「…遅かったね」とか言いながら机で何か包丁でも磨いでるんじゃないかって音をたてている。怖っ。最近弟がわからない。機嫌をとるためにその日の夕飯は刺身にするけれど機嫌がよくなるのは食事時のみでその不機嫌は三日三晩続く。その間の肩身の狭さったらない。俺は身の危険から逃れるための努力をしたまでなのになんでこんな気持ちになっているのだろうといつも疑問に思う。正直兄として生まれたからには弟には甘くなってしまうのが性であるようには思うがここで甘くなんてしたらいただかれてしまう。ぱくりといかれてしまう。それは非常に困るのだ。俺は巨乳の女の子が好きだし男とセックスするなんて全く想像できない。ならなんで死ぬ気で断らなかったんだと考えるとそれは一重に俺がバカだからなのだけれど。このときばかりは自分がどうしようもないバカなのだと認めざるを得なかった。しかたない。
そして何をとち狂ったのか(いや、バカだからしかたないのか)俺は勝呂に相談を持ちかけた。常識人で真面目な勝呂はもちろん俺の話に驚いて相当困っているようだった。当たり前だ。いきなり男友達に「二人の男(片方は付き合ってることになっているらしい)に言い寄られて困ってる」なんて言われても困惑するしかないだろう。その当たり前の反応に安心する。正直俺も当たり前とは程遠い人種ではあったけれど、こういうのはもう条件反射というか本能のような気がする。酷く安心した俺は志摩みたいに(不本意)へらへら笑いながら「あーあ、告白してきたのが勝呂だったらまだマシだったのになあ」とかバカ丸出しなことを言った。言った後「あ、やべ」と思ったけれど口に出したものが戻って来る訳ではないのでただ「わり、今の忘れろ。冗談だって」なんて苦笑いしながら取り繕ったけれどあんまり意味はないようだ。勝呂は俯いていて、もしかして気持ち悪がられたかなんて思って悲しくなった。数少ない普通の友達をこんなくだらないことでなくすのは惜しいと思ったからだ。勝呂良いヤツだし。焦る俺をよそに勝呂は「…まあ、嫌いではないけどな」と言った。え、と思って勝呂の顔を見上げると頭を軽くぽんぽんとたたかれてちょっと照れ臭そうに「…気にすんなや」なんて言われた。え、どうしよう。俺はやたらに恥ずかしくなって真っ赤になった。勝呂はそんな俺を見て「き、気にすんな言うたやろ!」とか怒鳴った。そういう勝呂も顔が赤い。うわあ、どうしよう。俺に付きまとうアイツらの気持ちが一瞬でもわかってしまったので俺は首を何度も横に振って「ないわ!マジないわ!」と叫んだ。俺はホモじゃない!
ちなみに木陰やら建物の陰やらで噂の当人たちがそれをのぞき見ていたのを俺はまだ知らない。





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