雨は嫌いだ。
頭の奥がじくじく痛むのはきっと昨日から続いている雨のせいだろう。朝だというのに薄暗い外を窓越しに眺めて布団に潜り込んだ。先程まで包まっていたそれはひどく心地好い温もりが残っていて、しばらくここから離れたくないと思うくらいには恋しい。もはや埃のにおいと自分の体臭しかしない布団に顔を埋める。昔に想いを馳せるなんて好きでもなんでもなかったけれどこの時期になるとそうしてしまうのはその分自分もいくらか大人になったということなのだろうか。こんな風になることが大人になることならば一生成長しないままでいい。…ちょっとは成長したいかもしれない。
引きずっていないといえば嘘になる。けれどそれをあからさまにみせる時期は過ぎてしまったし、いい加減周りに心配をかけてばかりもいられない。普段は大丈夫だった。それでもこの時期になるとどうにも駄目でうじうじ芋虫みたいにはいつくばっている。はいつくばるのがお似合いだ。全く、全く。みんなどことなく気遣ってくれるのがいたたまれない。誰か一人くらい罵ってくれれば良いのに。勝呂あたりしてくれねえかな、無理だなアイツ優しいし。俺は今日もまた人のせいにしてはいつくばる。雨、早くやまないだろうか。
薄暗い部屋には雨の音しかしない。窓にあたる飛沫が煩わしかった。あの頃からそのままになっている机だとかを横目に見てまた頭が痛む、じくじく痛む。全部煩わしい。最近は雪男みたいに薬を常用している。アイツは胃薬だったけれど俺は頭痛薬だ。効くかどうかもわからない頭痛薬をここ何年か飲み続けている。もう習慣だ。当初は周りから色々言われたが今ではそんなこともなくなって呆れられたり心配されたりするだけだった。時が経っているのだと実感する。だってあと少しもすれば酒飲める歳だもんなあ。
ぐずぐず鼻をすすった。頭いたい。鼻もでるし。そういえば寒気もする。もしかしたら風邪かなんて今更思った。風邪なんか久しぶりすぎて対応の仕方忘れた。そもそもこんな身体になっちまったけど俺って風邪引くのか。一気に考えたら頭痛が激しくなった気がする。最悪だ。薬を飲むにしても何か口にしなくてはならないだろう。自分のために料理するのが億劫だった。そういえばここ何週間か台所に立ってすらいない。あの頃はあれだけ毎日料理してたのになあとぼんやり思う。毎朝二人分の弁当作って、雪男と二人で飯食って。…昔のことだ。ちょっと涙が出てきた。まだ泣くのかと自分にうんざりする。もういい加減諦めろよとも思う。頭では一応納得しているつもりなのだけれど結局自分の中に抵抗し続ける部分がある限り何も変わらないだろう。
飯を作る気にもなれずに埃と自分のにおいしかしなくなった弟の布団に篭りつづける。雨は嫌いだ。嫌なことばかり思い出す。親父のこととか、雪男のこととか。俺はその度諦め悪く泣きわめいて子供みたいだ。身体と同じに全く成長しない。ちょっとは大人になったかもなんて嘘っぱちだった。みんなの時間は動いているのに俺の時間はあの時からぱったり止まってしまったようだ。嫌だな。カレンダーはちょっと前に黒く塗り潰したので今日が何日かわからない。嘘。本当はわかっている。忘れるはずない。いい加減忘れたいけど、前に進みたいけど。
今日はちょうど雪男の三回目の命日だった。





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