※アニメ設定


「ゆきお、頼むからなぐらせて」

まるで最中のように色めいた様子にどきりとして思わず頷いた。あは、小さく笑ったのが見えてそれから視界がぐるりと反転する。床にどさりと落ちて背中をうつ。頭皮が引き攣れて髪がいくらか抜けた。兄はそのまま僕に馬乗りになり、好きなだけ殴り始める。顔だって何だってお構いなしに殴るのだからきっと何も考えていないのだろうなあと思った。
とっても楽しそうに笑う兄。ぎりぎり呻く僕。全く反対のように見えても感じているのは同じだ。ただ楽しくて満たされている。これは暴力というのだろうか、お互いに納得しての行為は何というのだろう。
兄は他人を傷つけることを酷く嫌う。いいや、むしろ恐れている。自分の力が他人をいともたやすく壊してしまえることを知っているから、壊すのが怖いから、うまく隠していても本心ではいつもびくびくしている。僕はそんな兄をとても好ましいと思っていた。隠し事なんてできないくらい単純な兄が必死で隠しているのが恐怖だなんて、かわいらしい。
兄のなかにはじくじくと疼くような破壊衝動があった。元はとても小さなものだったようだけれど悪魔として覚醒して以来それは日増しに大きくなっているらしい。何かを壊したくてたまらなくて、それでも何も壊したくなくて。ぐるぐる腹の底に渦巻いたのが一際大きくなると兄はそれを一番近くにいる僕へと矛先を向けた。好きなだけ殴って蹴ってぼろぼろにして気が済むまで嬲る。そうして吐き出したのを冷静に見つめられるようになったとき、泣きながら僕に何度も何度も謝り続けるのだ。なんてかわいらしいのだろう。それは僕だけが知っていれば良いもので他人が知る必要はどこにもない。幸い兄と同じよう悪魔の身体になった僕はいくら暴力をふるわれようともすぐに完治した。そのおかげで誰にも兄の行為がばれることはない。兄と僕だけの秘密。とても素敵な響きじゃないだろうか。僕はそれを思う度にどきどきして気持ち良くなる。二人だけの秘密。世界に二人だけになれないことなんて嫌というほど理解している、兄が僕以外の存在を必要としているのも。だからこそ、それを思うと酷く興奮してたまらない。兄は他でもない僕を、僕をひとり選んだ。ひた隠しにしている衝動のはけ口に僕を。他人と接するようになった今でも僕を選んだ。僕だけ、僕だけ。考えるだけで笑いが込み上げて来る。それって何より幸せだ。こんなに幸せなことってない。
だから兄が我慢できないといったように僕を見つめる目が好きだ。情事の際甘えるようにねだってくるのと同じくらい。兄が脚を絡ませてくるのと首を絞めてくるのは僕のなかで同じ意味を持つ。僕を求めてるってことだ。

「ゆきお」

甘くとろける吐息で僕の首を締め付ける。紅潮した頬が色っぽい。目の前がちかちかするのはきっと酸欠のせいだけでなく快楽のせいもある。ふるえる手をのばして兄の頬に触れると唇に噛み付いてきた。舌を強めに噛まれてびりびりと電流が走る。やり返すと少し強く噛みすぎたようで兄の舌から血がだらだら流れこんできたけれどお互いにそんなことは気にしない。ぐちゃぐちゃにまざりあう。こんなことを続けていたら過ぎる刺激に脳がとけてしまいそうだ。ああ、万が一とけてしまったところでどうせすぐ治るから良いのだろうか、なんてちょっと馬鹿らしいなあ。





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