近頃の燐くんはとっても困っていました。何をそんなに困っているの?と聞かれれば燐くんはきっと言いづらそうな顔をするでしょう。なぜって、困っている理由がちょっと人には話せないようなものだったのです。隣の席の女の子は心配して理由を聞きだそうとしたのですけれど燐くんは頑として話そうとしませんでした。きっと意地になってしまったのだろうと女の子は聞きだすのをあきらめます。ただあんまり無理しないでね、とだけ伝えて。燐くんは困った顔をしていました。
さて、燐くんにはとっても優秀な双子の弟がいます。弟と比べられることは好きでありませんでしたが、努力して周りからの評価を得た彼のことは誇りに思っていました。弟が褒められるとまるで自分のことのように嬉しくなってしまうのですが、それを本人に見られると悪態をついてしまうのが常でした。もちろんそれは本心でないのです。燐くんは弟のことが大好きですけれど、照れくさくてつい悪態をついてしまいます。そんな風にしてしまった日の夕食は弟の好きな刺身にしてこっそり謝りました。燐くんは弟が大好きなのです。
けれど近頃の燐くんはちょっと違いました。あんなに自慢の弟だったのに燐くんは弟のことがなんだか怖くなってしまったのです。弟はきっと疲れているんだと燐くんは思います。勉強や仕事のしすぎで疲れているに違いないと。そう思わないと燐くんの方がおかしくなってしまいそうでした。
今日も弟と二人住まいの寮へと帰ります。自然と脚が重くなっているのに気がついた燐くんはこんなんじゃダメだと膝を叩いて自分に発破をかけました。そうしていつも通り元気に「ただいま!」と扉を開きます。
部屋の中はなんだか異様な雰囲気でした。異様というと大袈裟な感じがしますが、ぐるぐると渦巻いているようで常とは明らかに違います。ふと、燐くんは何かの息遣いを耳にしました。大方弟が帰って来ているのだろうと思ってちょっと嫌な気分になってしまった自分が燐くんは嫌いです。

「雪男?」

弟の名前を呼んで部屋をぐるりと見渡すと、そう広くもない部屋なのですぐに見つけることができました。

「…っ」
「ああ、兄さん…おかえり」

燐くんは思わず後ずさってしまいます。弟は燐くんのベッドにいました。それだけならなんともないでしょう、けれど燐くんは弟が心底理解できないのです。弟は燐くんの下着のにおいを嗅ぎながら自慰をしていました。時折その下着をいやらしく舐めて燐くんを煽ります。ベッドの周りにはシャツやズボンが落ちていて、そのどれもが燐くんのものです。燐くんはぞわりと粟立つのがわかりました。弟のその様を生理的に気持ち悪いと思いますけれど拒否なんてできないのです。燐くんは弟が大好きでしたので、弟の悲しむことはしたくなかったのでした。もしここで燐くんが自分を守ることだけ考えられる生き物だったならば、きっともう少し普通の人間に近い暮らしができたことでしょう。燐くんには拒否する権利も資格もありました、いいえ、始めからそんなものは必要なかったのです。燐くんはただ一言「そんなことやめろ」と言えば良かったのです。それをしないのは燐くんの間違いですので、ある意味燐くんが困っているのは自分自身のせいなのですが、誰もそんなことを教えてくれる親切な人はいませんでした。かわいそうに燐くんはどんどん望んでいるすがたと離れてゆきます。

「兄さん」

小さく呼ばれると燐くんは肩を震わせてから弟の膝の上に座りました。そうすると燐くんの尻には弟の硬いものが当たって、それが嫌な燐くんはむずむずと腰を動かしますが、その様子を弟が前からいやらしい笑みで見つめています。燐くんは顔が真っ赤になるのを感じました。弟の膝の上におさまるという兄としては屈辱的な格好で燐くんはそのまま抱きしめられてしいます。こうなると弟は満足するまで燐くんを放してくれませんでした。荒い息で燐くんの脇や首筋のにおいをかいだり、ねっとりと舐め回したりしました。「汗かいてるからやめろ」と燐くんは嫌がりますが弟は気にもせずに、むしろそれすら楽しんでなぶります。燐くんはその行為の最中ただ気持ち悪いのを我慢するだけでした。弟が楽しそうなのを少し上から眺めるのです。ああ良かった、と。燐くんは弟がさっぱり理解できませんでしたけれど、嬉しそうな顔を見れれば嬉しくなってしまいます。困っているのに?本当は困ってなどいないのかもしれません。こんなに変なことをされたって、燐くんは弟が大好きなのです。





「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -