(志摩と燐)
いきなり袖を勢いよく引っ張られたかと思うと、薄いカーテンの向こう側へ連れ込まれた。
なんだなんだ。
頭が回転しきっていないのに端から端、事が起こってもうよくわからない。
「どうしたん奥村くん…」
俺を引きずり込んだ彼は少し下を向いている。声をかけてみても返事は返ってこないのがもどかしくて、ちょっとばかり細い腕を掴んだ。
「え」
掴んだのに、逆に襟首をぐいと引っ張られてそのまま小さく口づけられた。
ちょんと触れてすぐ離れた柔らかい感触に呆然としているとなんだか真っ赤になった彼がいる。そんなに赤くなられるとこっちまで恥ずかしくなってきて、ちょっと赤くなってやしないかと自分の頬をぱたぱたはたいた。
「あっ、あのなっ」
やっと言葉を口にした彼に目を向けてみる。睨んでいるんじゃないかというくらい目を細めて恥ずかしげにそわそわしているのがかいらしい。
眼福やなあ、なんて見ていると彼は声を小さくして言った。
「…ゆ、雪男には……内緒なっ」
赤い顔のまま困ったように笑って逃げた。
…なんやねん。
ほんにかいらしい彼にどぎまぎして、しばらくはここから出られへんやろなあなんて思った。