「あ」

俺達も結局は年頃の男子な訳で誘惑には勝てず、ほどほどに致した後ベッドで横になっていると何か忘れているような気がした。なんだなんだとばかりに考えこんでいたところに今、急に、こう何かがびびっと走ってひらめいたような気がした。ただそれが何だったかわかる前にすっかりどこか遠くへ行ってしまってなんだかため息をつきたい気分だ。横にいる弟は突然声をもらした俺を怪訝そうな顔で見ている。いや、俺もよくわかってないのにそんな顔されてもなあなんて身も蓋も無いことを考えた。

「なに」
「んー…」
「…なにもないの?」
「ん」
「ふふ、なにそれ」

苛立った様子もなくむしろおかしそうに笑う弟は珍しいとぼんやり思う。いつもはすぐ怒るのに。もしかしたら弟も疲れているのかもしれない。
仰向けだったのを向き合うように横にして、目尻の下がっている弟にひっついた。肌と肌が触れ合う感触にそれでもそういう気分にはならずただ愛おしい気持ちだけがふつふつと湧いている。ほんのり温かくて、少し汗ばんでいるのがなんだか余計に愛おしくて自然に口角があがってしまう。笑顔は伝染するんだなあなんてちょっとくさいことを考えてみた。弟は急にひっついてきた俺に驚いたようだったけれどくすくす笑いながら腕をまわしてくる。弟の腕の中におさまるというのはどうなのだろうなんてよく考えるが今はそんなことどうでもよかった。
ふといたずらしたい気持ちがむくむく首を傾げて、にやりと笑ってから弟の前髪をかきあげる。ぱちぱちと不思議そうにまばたきをする様には一切の邪気がなくてなんだか小さい頃を思い出した。あの頃の雪男はかわいかったなあ。そのかわり今はかわいくない、俺よりもデカくなりやがって。ムッとして顕わになった額をぱちんと叩いてやった。

「いたっ…何すんのさ」
「うるせー、なんかお前のデコは叩きたくなんだよ」
「意味わかんないし…」

額を叩かれるのが地味に嫌そうだったので味をしめてぱちぱちと何回も叩いたらちょっと睨まれた。それ以上やると怒られそうだったからそこでやめにしておく。何度も叩かれた額はいくら軽く叩いたからといってもほんのり赤くなっていたので、謝る意味もこめてそこへ小さく口づけすると弟の顔はあっという間に真っ赤になった。

「…なっ、なんでそこで照れるんだよ…!」
「知らないっ…!なんか恥ずかしくなったんだよ仕方ないだろ!?」

やることはやっている仲なのにこんなことで照れるなんて予想外で、赤くなった弟を見ているとこっちまで恥ずかしくなってきた。こういう関係になったばかりの頃のように二人して真っ赤になって馬鹿みたいに騒いだ。さっきまでの気怠さはかけらも残っていない。おかしな言い合いはそのままだらだらと続けられていた。

「…あ」

そうだ、思い出した。
明日の夕飯は刺身にしてやろうとしてたんだ。





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テーマ「人外ファンタジー」
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