ぷつり、と刺さった針が目に入る。横たわったベッドは体重で浅く沈んで、頭がふわふわした。針が刺さった部分に小さな血液の玉ができ、そこに脱脂綿を当てた後針をすうっと抜かれる。相変わらずの早業だった。
どうせまた変なクスリなんだろうなあとふわふわとした頭で考える。弟はとても楽しそうに笑っていて、この注射好きの変態野郎が、なんて頭の中で罵った。口に出したら悦ぶだろうからもちろん言わない。

「兄さんはかわいいね、そうやってベッドに埋もれてるのが一番かわいい」

そうですかそりゃどうも。

「兄さん、点滴しても良い?」

嫌っつってもやるくせに。
点滴は傷が早々に治る身体のせいで針と肌がくっついて抜くとき地味に痛いので嫌だった。まあ言ったところでたいして意味はないだろうけれど。
そこで身体が動かないことに気がついた。きっと先程の注射は麻酔か何かだったのだろう。悪魔に効く麻酔って。このときばかりは弟の悪魔薬学の天才という称号を恨めしく思う。

「はい、じゃあ点滴しますね。じっとしててください…」

じっとしても何も動けねぇから。
弟は喜々として点滴の道具を取り出し、ぷすりと針を刺す。もし俺が普通の人間だったなら腕中に針の跡があるジャンキーみたいになっていただろうなあと思う。残念ながら傷がすぐにふさがるせいで弟の馬鹿な遊びは一度もばれたことがない。なんてこった。
弟は次々に針を刺してゆき、最終的には尋常でない量の管が俺の身体から伸びていた。どっかのアンドロイドがメンテナンスされているようなその姿を見て、蕩けた顔でため息をつく弟は真正のド変態だろう。

「兄さん、気分はどう?」

最悪ですよ。
唇も指先すらも動かないから頭の中で答える。

「こんなにたくさんの管が兄さんに繋がってるなんて…すごい」

弟は気持ち良さそうに管の一つを人差し指でなぞる。音もたてない点滴はぽたぽた雫を静かに垂らし、それを見てずいぶん前に初めて点滴されたときは空気が入っていて死ぬかと思ったなあと懐かしい記憶が掘り返されて嫌気がさした。

「ね、兄さん」

ね、兄さんじゃねーよこのド変態クソ野郎。罵る言葉は相変わらず脳内におさめる。唇も動かないしな。
そんなド変態弟はさらに変態なことに俺の横で自慰を始めた。おいおい、さすがの俺もドン引きだぞ弟よ。冷めた目で蔑むように弟を見つめるとそれにすら興奮したようでちょっと後悔した。何が悲しくて双子の弟の自慰を鑑賞しなくてはいけないのだろう。

「……っ」

小さく息が詰まるような声が聞こえて、白い液体が弟のそれから飛び散った。液体はベッドから少しはみ出していた俺の手にかかる。うげ、最悪。麻酔のおかげでその感触は一切感じなかったけれどそれでも視覚的なものでキツイ。弟は達したばかりの荒い息で俺の汚れた手を舐め始める。ひいい、きっと声が出せたらそんなのが出ていたに違いない。キモい。そのまま俺の手についた液体を全て舐めとり、ゆっくりと顔を近づけてきた。
え、え、何これまさか、ちょっ?
最悪の想像はそのまま実行された。近づいてきた弟の唇が俺のそれに触れて、そのまま口内に液体を流し込まれる。途端に広がるえぐみに抵抗したくても全身にかかった麻酔のせいでできない。おとなしく飲み込むしかすべがなくて、少しずつ少しずつそれを飲み下した。弟は口内を舌で掻き回してそれがなくなったことを確認するとゆっくり唇を離す。俺の口端からは唾液がダラダラ動物のように流れていった。

「…兄さん」

うっとりとした表情で頬を赤く染めている弟は本当に気持ち悪い。一般的にはかっこいいとされている顔も変態行為のせいで形無しだ。お兄ちゃんはお前の将来が心配です、ってもう手遅れか。首筋をぺろぺろ舐め回されながら、今度はどこに針を刺されるんだろうと思うと心底嫌気がさした。





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