※とんでもパラレル


朝起きると良いにおいが漂ってきて驚いた。
こんがり焼かれて食欲をそそるトースト、つやつや光る半熟の目玉焼きとかりかりに焼いた香ばしいベーコン、鮮やかな色をしたサラダ、おまけにブルーベリーソースがかかったヨーグルト。
思わず感心してため息をついてしまう。普通の人なら簡単に作れる献立かもしれないが、生憎料理の腕前が壊滅的なせいでここまで人並みな朝食を摂るのは一人暮らしを始めてからは初のことだった。

「おー、おはよう」
「…おはようございます?」
「なんで疑問形なんだよ」

からから笑った。なんでと言われてもどちらかと言えば僕の反応のほうが正しいような気がする。

「あ、ワリィな勝手にキッチン使って」
「…いえ。普段は使っていないので使い勝手が悪かったでしょう」
「やっぱり使ってなかったか…、まあそこまででもなかった。お前自炊しねぇの?」
「しないというか、できないというか」
「へえ、なんか意外」

せっかく用意されていたので好意に甘えてテーブルにつくと彼も冷蔵庫から牛乳とケチャップをとって真向かいに座った。ちなみに牛乳は僕が普段朝食にしているシリアルにかけるものだ、まあ別に文句を言うつもりはないけれど。

「いただきまーす」
「…いただきます」

彼を真似てぱちりと手をあわせて一般では食事前の挨拶とされるものをする。正直あまりしたことはない。一人暮らしともなるとそういったものはおざなりになるし、小さいころは修道院暮らしだったから食事前は祈りを捧げていた。ん?よく考えたら初めてかもしれない。
彼はケチャップを目玉焼きの上にささっとかけた。ケチャップ。目玉焼きにケチャップ。ちょっと面食らった。

「ん、どした?」

僕の視線に気づいたのか彼が不思議そうな顔をする。間抜けな顔だなあとぼんやり思った。

「…目玉焼きにケチャップって珍しいですね」
「ええっ、そうかぁ?」
「普通は醤油とかソースとか…」
「俺は昔っからケチャップだなあ。お前は?」
「…醤油です」
「ふうん。あ、ケチャップかける?」
「遠慮します」
「んだよ、美味しいのに」

あからさまに頬を膨らませて目玉焼きの黄身をフォークで潰した。僕は黄身を最初に潰したりしない。彼とは何もかも違う、それにちょっと安心している自分がいて驚く。
そうして彼を観察していると拗ねたように口をとがらせて言った。

「……なんだよ、殺人犯はケチャップ食っちゃいけないのかよ」
「別にそんなことは言ってませんよ」
「でもなあ目がなあ、そういう風に言ってんのっ。どーせ血の色と似てるからだろとか」

そんな馬鹿な。

「被害妄想です」
「今『コイツ馬鹿だろ』って思っただろ!」
「思ってませんよ…」

ちょっと近いけれど。

「……ていうかさあ、よっく人殺しと呑気に飯食えるよなあ。お前変わってるよ」
「そうですか?」
「そうですよ。そーとー変わってる」

夜中押し入ってきた人殺しがその家の人間に朝食を作ってることも相当変わっているような気がする。

「…例えばさあ、俺が豹変して襲ってくるかもとか考えないわけ?」

彼は目玉焼きをつついていたフォークをこちらに向けた。ぎらりと鈍く光るそれは確かに人を殺せる凶器にも成りうる。ただ相当苦労するだろうけれど。

「やるなら既にやっているでしょう」
「油断してるところをグチャグチャに切り刻みたい変態思考の持ち主かもよ?」
「変態なんですか」
「…違うけど」
「ならもう良いでしょう。血とか殺すとか切り刻むとか、そういうの食事中にやめませんか」

彼はぱちぱちと瞼を瞬かせて、一呼吸後に小さく吹き出した。

「ぶっ、…お前結構繊細なんだな」
「…悪かったですね繊細で」
「ただの真面目メガネくんかと思ってたんだけどなー。実は変なヤツだし」
「僕もこんな間抜けな殺人犯がいるなんて思いませんでしたよ」
「そいで毒舌、と…おもしれーヤツ」

けらけら笑う彼はどう見たって殺人犯には見えない。人は見た目によらないというけれどその類だろうかとどうでもいいことを考えながら目玉焼きの黄身崩しに取りかかった。





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