寝ているので甘いにおいがしてふらふら誘われてしまった。外に出ないわけではないのにほとんど焼けない白い肌に唇を寄せて、すうとなぞると小さくふるえた。かわいい。瞼と一緒にきらきら光る睫毛も揺れてなんだかちょっと色っぽい。寝ているだけなのにね、なんて思ったけれどそれはきっと兄だから仕方ないのだろう。頬をつつくと「ううん」と唸るのが聞こえた。兄さん、小さく呟いたけれど当たり前のように聞こえないようだ。仕方がないので甘いにおいのする腕を引き寄せる。甘いといっても花のように可憐なかおりがするわけではなくて、それは生き物のにおいではあったけれど酷く魅力的なにおいだった。寝ている生き物特有のやわらかな温かさと甘い皮膚のにおいが五感を通してちくちくと脳を刺激してくる。つまむわけではないけれど、少しばかりそれを舐めてみればちょっとしょっぱくてほんのり甘い。もう一度舐めると甘さが増して皮膚ってこんなに甘いのかとぼんやり感心した。唾液に濡れて、てらりとひかる肌にハッとしてあわてて自分の袖で拭った。あんまりにも元通りでちょっとがっかりしたのは嘘だと言いたい。嘘です。そういうことにします。
まだ夕方で、きっとこのままだと兄は夜寝れなくなってしまうのだろう。けれどもう少しそっとしておこうと思った。それはもちろん、僕自身のためで。兄の寝顔を見ていたいからで。たまには自分にご褒美をあげたって良いと思うのだ。だから放っておく。僕のために。
さあ、兄さん。せいぜい僕のためにぐっすり眠ってくださいな。
くすくす笑った。




寝ていると弟がいきなり人の腕を舐めだしてびっくりした。けれどその後あわてて拭ったりだとか楽しそうにくすくす笑ったりだとかするから面白くて寝たふりを続けた。小さいころもめったにいたずらなんてしないヤツだったけれど、たまのそれにひたすら目を輝かせて楽しそうにしていたのを思い出した。実はそういう弟の顔が好きだった。素直に楽しそうで、なんだか子供らしくて安心したからだ。弟は歳のわりにずっと大人びていて、きっとそのぶん俺なんかよりずっと苦労していたのだろう。だからあの時みたいに笑う弟を見れて俺もちょっとうれしくなった。にやけてしまわないように必死に唇を結んだけれど変な顔になっていそうで怖い。
弟はやっぱり楽しそうに微笑んでいる。





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