※妊娠ネタ
大きくなった腹。前と比べるとずいぶん大きくなったそれを撫でる。よくその様を聖母みたいだって雪男に言われるけれどいやいや俺男だしって切り捨てる。いや普通男は妊娠しないけど。まあ俺は普通じゃないんだけどな。
人間なら女が普通のところも悪魔なら性別関係なく妊娠できるのかなんて適当に考えている。そうじゃないとやっていられない。俺の腹に子宮はないはずだし卵子だってなかったはずだし、ならどこでどうやって赤ん坊が育っているのかなんて考えだしたら怖くて頭がおかしくなりそうだったから先に思考を放棄した。何にも考えなくて良いのは思ったよりも楽だった、何より生きやすい。俺があんなに悩んで死にそうになって苦しんだっていうのに雪男はあっさり「え、そうなの。なら責任とらないとね」なんて言って色々用意したりだとか手回ししたりだとかしてるもんだからああ弟はもう頭おかしかったんだなあと思った。そりゃあ兄を何日も犯し続けるくらいだから頭はおかしいはずだよな。俺は頭おかしくなるのが嫌だったから考えるのをやめた。雪男は相変わらず幸せそうで何よりだ。
大きくなった腹。何にも考えないと日々成長していくそれがなんだか愛おしく思えてきて色々気をつかって生活している。階段はなるべく避けるようにだとか走らないようにだとか普通の妊婦と変わらないようなもんだけど。普通普通言ってると普通がわからなくなってくる。もうどうでもいいやって段階にはなっていないけれどそれはすごく近いことなんじゃないかなあと危機感はあったりする。まあ楽に生きよう。
「あ」
なかで動いた気がする。そういう小さなことが一々嬉しい。俺や雪男を産んだ母はどうだったのだろう想像はできないけれど、少なくとも俺にはすごく嬉しいことだ。
それでもたまに産まれてくる子どもが人の形をしていなかったらどうしようなんて考えるときがある。俺の見た目は一応人間寄りだけれど正真正銘悪魔なのだから産まれる子供もそういう、悪魔の見た目をしているんじゃないかって思うと不安になる。雪男はどう思っているのだろう。ちょっと聞けずにいる。見た目がどうであれ喜んでくれるのだろうか。どちらにしてもやっぱり外見は雪男に似てくれるに越したことはないと思った。
「雪男、今動いた」
「ほんと?」
雪男に言うと嬉しそうに俺の腹へ耳をあてる。腹の子は父がわかるのだろうか、また小さく動いた。
「あ、今動いたね」
「そうだな。父親だってわかってるんじゃねぇの?」
「だと良いんだけど」
はにかむように笑う雪男はなんだか親の顔をしていてちょっと驚く。自覚早いなあなんてぼんやり思った。俺はまだよくわかんねえや。ただ愛おしいってことだけで。
大きくなった腹。それをもう一度撫でて「ふう」とひとつ息をつく。よくわかんねえなあ子ども産むって。わかったらマズイ気がするけど、そのときが俺の終わりって気がするけど、雪男が幸せそうで子どもの成長は順調で俺もまだまだ大丈夫そうだからそれまではこの幸せな時間が続きますようにって願っておく。
大きくなった腹。なかで子どもがうごめいている。