身体が熱い。頭に自分の声がぐわんぐわん響いて気持ち悪い。もう面倒で声を抑えることもしていなかったから、だらしがない口からは引っ切りなしに高いのが漏れる。端から唾液が垂れていた。突き上げられる度に何かが身体をはいずり回って痙攣させる。俺は抵抗もできなくて…いいや、しなくて、役立たずの腕を引きちぎってしまいたい衝動から逃れられない。

「…兄さん」

覆いかぶさっている弟の髪から汗が滴る。それは俺の頬に落ちて涙みたいに伝った。弟はよく最中に俺のことを呼ぶ。反対に俺は一回も弟の名前を呼んだことはない。目を逸らし続けているからだ。

「兄さん…っ」
「は、あっ…名前、名前でっ…呼べ」
「…燐」
「……っ」

燐。
名前。名前で呼んでくれれば多少はマシだった。兄さんなんて最中に呼ばれているのはいくらなんでも嗜虐的すぎる。
…名前。アイツは俺のこと名字で呼ぶんだ。
今まで自分の名字なんて気にしたことなかった。ありふれたものだし、ただ小さい頃に一度だけ親父とは違うんだよなあなんて思ったくらいでそれ以降何か思ったことはない。だのに最近、彼がそう呼んでいるというだけできらきらして聞こえるのだ。ありふれたものでしかない。なのに優しい音となって俺の脳内にじんわり広がった。奥村くん。耳から離れないんだ、優しい声が。

「…燐っ」

荒い息が肌にかかった。弟からそう呼ばれるのは慣れていないからなんだか耳に馴染まない。もし彼に燐、なんて呼ばれたらどうなるのだろうか。嬉しいだろうか。…多分、きっと嬉しい。話すだけでも嬉しいのだ、名前を呼ばれたらきっとすごく嬉しい。すごく、幸せだ。

「燐」

一瞬、弟の声が彼の声に聞こえた。どきん、心臓が大きく波打つのがわかる。ああ、違うんだな。わかった。弟に呼ばれるのと彼に呼ばれるのじゃあきっと、全然違うんだ。俺は後ろめたくて、弟の首に手を回す。ちょっと驚いていたけれどすぐ苦笑いした。弟は頭が良いから、多分全部わかっているんだろう。それでもこうしているのはきっと、俺と同じで諦めきれないからだ。変なとこばっか似ちゃったな。俺も苦笑いする。
動きが激しくなって、そろそろなのかとぼんやり思う。頭はこんなにも余計なことばかり考えるのに身体は全然余裕がない。喉から漏れる高い声は俺にはすごく耳障りだけど多分弟には違うのだろう。熱い息が耳にかかって、ああもう駄目だと思うと目の前がチカチカ点滅して真っ白になった。中に弟のが流れ込んでくるのがわかる。息を整えるためにゆっくり呼吸をしていると弟と目があった。その目が今日見た彼の目にそっくりで急に目頭が熱くなった。ぽろぽろ涙が落ちる。なんだかここ何日かで涙もろくなってしまったみたいだ。止まらない。弟は困ったように俺の涙を指で拭う。俺は泣いているのを見られたくなかったから急いで弟の唇に口づけた。近いからこれなら泣いていても見えないだろう。
涙はぽろぽろ止まらなかったけれどもう我慢しなくても大丈夫だった。泣いても目を擦らなければそんなに腫れないって、教えてもらったから。



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