思ったよりもぼろぼろになってしまった。最近加減がわからなくて、もし殺してしまったらどうしようなんて思っている。
咳込んでいるところにまたひとつ蹴りを入れてやると大きく身体が痙攣した。笑える。

「兄さんさあ」

もう一度蹴る。腹に蹴りを入れるとえずいて吐きそうになっていたから更に蹴りつけた。耐え切れなかったようで不快な声をあげながら胃の中のものを吐き出した。僕はそれをあんまり汚いとは思わない。ただ兄ばかりはいらつくほど汚く思えて未だ咳込む彼を蹴飛ばす。力が入らないみたいだ。簡単に転がって壁にぶちあたる。つん、と吐瀉物のにおいがした。兄を踏み付ける。つま先でえぐると低く呻いた。

「抵抗しないの」

上から体重をかけて勢いよく踏み下ろす。思い切り踏んでいるのに兄からは小さくひゅうひゅうという音しか聞こえなかった。

「ねえ兄さん」

つまらないつまらない。いくら踏んだって蹴り飛ばしたって兄は何にも言わない何にもしない僕がいないみたいに振る舞うからそれがいらついていらついて塾の人達にはあんなに笑いかけるのに僕には見向きもしない兄。が、僕には信じられない。双子なのに。たった二人しかいないのに。僕と兄さんしかいないのに。何故その他ばかりに目を向けるの。微笑むの幸せそうなの困った顔見せないで一緒に騒いだり怒られたり笑ったり心を揺らしたりしないでよ。僕を見て兄さん。幸せは完結すべきだ。綺麗な形におさまるべきだよ兄さん。兄さんも気づいてるでしょう。どうせあんなの長続きしないって。だって兄さんだよ?ねえ、自分が一番わかってるでしょ。兄さん。

「無視しないで」

涙がでた。兄は死にそうに息している。全て治りきる前にまた新しい傷をつけているからいつまでだって兄を苦しめられるのだ。兄は動けない。ただ息をするだけで精一杯なのだ。そのはずなのに。
小さく笑った。息は相変わらずひゅうひゅういってて死にそうだったけれど。優しい笑顔だ。小さいころいじめられて泣いていた僕を撫でてくれたときの笑顔。兄さん。優しい兄さん。僕の兄さん。兄さんの僕。本当は僕らはひとつで生まれてくるべきだったのに。そうすれば片一方が苦しんだりしなかった。等しく幸せで、等しく不幸だ。ぽろぽろ涙が落ちた。変わらず兄は笑っている。兄さん。兄さん。少しずつ怪我が治っていって、喋れるくらいには回復したのだろう。兄が唇を小さく動かした。

「ゆき、お」

ゆきおは、かわいいなあ。おれがいないと生きていけないくせに。食いもんだってそうだけど、おれがいないと生きていけないだろう。身体ばっかり大きくなって、ゆきお、おまえは本当に弱くてかわいいな。おれをいくらけり飛ばしてもふみにじっても銃でうっても刃物でえぐってもおまえはいつだってかわいいよ。泣きながらそんなことしてもこわいなんてぜんぜん思えない。小さいころいじめられてたときみたいにぽろぽろ泣いて、ばかみたいでかわいいよ。ばかなゆきお。おれの弟。あいしてるよ。でもころしたいよ。ゆきおは死んだら天国にいけるんじゃねえかな。そしたら親父にも会えるな。おれは悪魔だから天国になんていけやしねえけど、ゆきおならきっといけるな。でも俺のこと殺したら雪男、天国になんて行けねえよ。地獄だかなんだかわかんねえとこに落とされちまうかもな。雪男、だから殺したいよ。愛してる。だからさ、無視してるなんてさ。俺はお前の心を殺したかっただけだよ。お前、なあ。俺がいないと生きていけないだろう。話をしないと心が死んで、声を拾わないと鼓膜が死んで、食い物を食わねえと胃が死んで、触らないと皮膚が死ぬだろう。お前を殺すのなんて簡単だな。あんなに強いのに、こんなに弱いんだ。馬鹿みたいだな。雪男。俺のかわいい、かわいい弟。弱くて馬鹿みたいで何にも変わってない雪男。愛してるよ。


「殺したい」



兄が無視をやめた。兄が反応した。兄は兄がこうして僕は。兄は正しく悪魔だ。僕をおとす正しい悪魔だ。僕らが二つだった意味は兄が悪魔であることで証明される。兄は悪魔だった。兄は正しく悪魔だった。兄さん、僕も愛してるよ。だから殺してください。





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