ぱあんとものすごく良い音がした。
それは当然のように頬をはられた音で、もちろん俺が彼を叩く訳ないのだから叩かれたのは俺になる。理不尽の三文字が頭をすうっと過ぎっていった。
始めはお互い呆然としていたのだけれど彼の方はしばらくすると大声で笑いはじめたのだからさすがに抗議したくなる。

「ちょお、それは酷いんとちゃいます!?」
「ぶぶふっ、だ、だってスッゲー良い音したし!!ぱあんってなんだよ、んなんマンガでしか聞いたことねーっつの!!ぶひゃひゃひゃ!!」
「なんやのこん酔っ払いタチ悪いわぁ!」
「にゃはははははは!!」
「うつってますよシュラ先生のん!」

いきなり、本当にそれはもう唐突に人のことぶっ叩いておきながら本人は大爆笑してるなんて、世の中は理不尽としか言いようがない。兄にいきなり跳び蹴りかまされるくらいどうしようもない。
自分の髪をぐしゃぐしゃかきまわして「ああもうっ」なんて言ってみたところでそれは彼の笑いを増長させることにしかならなかった。

「奥村くん知っとる?未成年の飲酒は法律で禁止されとん」
「しまは俺をばかにしてんのか?ジュースしか飲んでねーよ?」

嘘つけ。
どうせうっかりジュースと酒の缶を間違えたのだろう。べろんべろんに酔っ払った彼は例に違わない『めんどうくさい酔っ払い』だった。

「しまぁ。しまは怒ってんのか?」
「怒っとんのとちごうて呆れとんの」
「ぶふぁっ!あきれとんのかぁ!」
「もうええ加減黙りよ…」
「むり!ちょうウケる!」

顔を真っ赤にしてひいひい言ってる彼は傍目から見てよろしくない、非常によろしくない。ちょっとばかり欲が湧くのを自分は何酔っ払いに欲情しとんのやと諌めた。
ぴた。急に静かになったかと思ったら彼が真面目な顔をしてこっちを見つめていたからびっくりした。

「ど…どないしはったん奥村くん…」

思わずつんのめった言葉なんて気にする余裕もなく彼をじいっと見るしかない。どくどく心臓が動く音が聞こえる。

「奥村くん?」

黙っているのが心配になってもう一回呼んだけれどやっぱり静かだ。まさか寝てやしないかと俯いたのを覗き込もうとしたところを「しま、」呼ばれて心臓飛び出るんじゃないかと思った。

「しま…俺、俺な」
「う、うん」

ちょっと声がひっくり返った。

「俺……しまのことな…」

ま、まさか奥村くんも俺とおんなし気持ちやったん…?
ちょっと落ち着かないくらいにそわそわする。目線があっちこっちいって定まりないのがばれてやしないか。
彼がふ、と笑ったのがやけにきれいで、別人なんじゃないかとか馬鹿なことを考えてしまう。どきどきしているのをひたすらばれないように隠していると奥村くんはそっと口を開いた。ゆっくり唇の動きをなぞる。




「めっちゃすっきやねん…」

「え」

なんでいきなり関西弁。思わず漏れたのを聞いて大笑いされた。

「ぶひゃひゃひゃひゃっ!!ヤベェ!!どうこれ京都弁!しまに似てる?ぶふぁっ、くくくっ…!!」

え、何、告白と違うん?
なんだか置いてきぼりにされた俺は目をぱちくりさせるしかなかった。
ええ、なんで笑っとんの。これどうしたらええのん。奥村くん俺のことほんに好きなん、酔っ払った勢いだけなん。意味わからへん。
色々言いたいことはあったけれどとりあえず考えに考えて一つだけ口にした。


「奥村くん、ものすごく惜しいんやけどそれ微妙に大阪弁入っとん…」

奥村くんの笑い声は一切全く目処もなく止まらない。
ああ仏様、廉造は修行が足りひんようです。





方言間違ってると思いますすみません。

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