ボクは3番目の子どもだった。別に兄弟で上から3番目だとか3番目の愛人の子どもとかそういうことじゃなくて、ただ、3番目に生まれた子どもってだけ。しばらく子どもの生まれなかったこの村に、ようやく赤ん坊が生まれるようになった。その、3番目。この辺りでは何十年かに一度子どもが全く生まれなくなるらしい。その後何人かの子どもが続けて生まれるようになり、またパッタリ止まってしまうのだという。案の定ボクが生まれたのを期に子どもが全く生まれなくなってしまった。今、この村にいる子どもはボクたち三人だけだ。
ボク以外の子ども二人は、茶色いふわふわした髪の男の子と、炭みたいに真っ黒な髪をした赤い目の男の子だ。歳が近いこともあって三人で一緒に居ることが多かった。山を駆け回ったり川に突き落とされたり変なキノコを食べさせられたり。まあ、仲が良かった。今考えるとちょっとおかしな話だけれどとにかく仲は良かったのだ。
ある日突然、村の大人たちがボクを森奥の洞窟に連れて行った。今まで着たこともないようなきれいな布で作られた服を着せられたのでそわそわ落ち着かない。茶髪の男の子はかっこいいと手放しに褒めてくれて、黒髪の男の子は変な顔をしていた。「何かおかしい」初めはボクの格好をバカにしているんだと思って抗議したのだけれど、どうやら違ったらしい。普段あまり見ないような真面目な顔でそう言っていた彼の言葉を心配しすぎだとなおざりにしてしまったのは、悪かったと思う。渡された村の特産品を手にしたまま洞窟の奥へと進む。なんだかよくわからないけど奥に行けばわかると言われたので言葉通りに。普通ならその辺でおかしいと気づくはずなのに、それでも僻地の小さな村で育ったボクにはわからないことが多すぎた。
洞窟の奥に進めば進むほど薄暗かったのが段々明るくなってきて、中に灯が灯っているのかと思っていたけれど途中で様子がおかしいことに気がつく。灯りがあるという感じでなく、空間そのものが明るくなっているような。少し、ほんの少しだけ怯えながら奥へと歩いていく。洞窟は明るさを増してゆき、いつの間にか辺りは真っ白になっていた。あんまりの真っ白さに何かないかと周りを見渡すと、ちょっと離れたところにぼんやり薄桃色を発見して、小走りに駆け寄ってみる。近寄るとそれがかわいらしい女の子であることがわかった。ボクよりもいくらか年下に見える。

「キミ、こんなところでどうしたの?」

一面白の空間にまだ目が慣れていないので視界がちかちかする。現実感もまるっきりない。声をかけた女の子は俯いたままだ。なんだか不安になってきて、その子の肩に触れようとした瞬間。

「がっはっはー!!」
「うわあああ?!」

びっくりして思わず転びそうになった。そんなボクを見て女の子はくすくす笑っている。ちょっと酷いなあ、まあ別にいいんだけど…。それより他のことが気になった。

「キミは誰?どうしてこんなところに…」
「わたしは魔王だよ!魔王様だよ!」
えへんと胸を張っている。
「え…魔王ってなに…ていうかそれじゃここ魔界ってこと…?」
「はあ?ここのどこが魔界に見えるんだよ」
「すみません」

無邪気な顔から急に心底人を見下したような目をしてきたので反射で頭を下げてしまった。幼女こわい。女の子はまた元のように無邪気な顔をすると「ようこそ3番目の子、3番目のイケニエさん!」と言った。

「え、イケニエって…あの生贄?」
「そうだよーあの生贄だよ。もしかして知らなかったの?途中でおかしいと思わなかった?」

思わなかった…。なんだか自分がとてつもない間抜けのように思えて居た堪れない。ヘコむボクの頭を女の子がそっと撫でてくれた。って、なんか腕伸びてる!!

「この地域では子どもが生まれなくなると洞窟の主に一人の子どもを生贄として捧げる風習があるんだよー。わたし洞窟の主ってわけじゃないんだけどなあ、魔王だもん」

なんだか色々説明してくれているようだけど、うねうね伸びる腕が気になって全然頭に入ってこない。

「それに3番目にこだわってるわけじゃないんだよね。別に1番目でも45番目でも良いの」
「え、じゃあ3番目以外の子どもでも良いの?」

ぬるんと元の長さに戻った腕を警戒しつつ、最後になんとか聞こえた言葉にだけ質問を返した。

「まあねー」
「そうなんだ。なら、ボクで良かった」
「何が?」
「生贄にされるの」

それを聞いた女の子は機嫌を損ねたらしく、ふんすと鼻息荒く腕組みをする。

「生贄って言っても取って食うわけじゃないんだからね!」

あ、そうなのか。とりあえずは死なずに済みそうで安心した。見た目はかわいい女の子でも、生贄と呼ばれたからには頭から丸呑みされたり八つ裂きにされたり何やらあるのかと思っていたのだけど。さすがにまだ死にたくない。怖いし痛いのも嫌だ。

「アルバさんはこれからずっとわたしと一緒いて、ご飯食べたりお喋りしたりして楽しく過ごすんだよ!」
「そ、そっか…」
「そうなのです!」
「ていうかボクの名前アルバじゃないよ…?」
「え?そんなことないよ。わたしがアルバさんを間違えるなんて絶対にないもん。今の名前が違ったってアルバさんはアルバさんなんだよー」

…うーん、なんだかさっぱりわからない。

「ほんとはもっと人数が揃ってたら良かったんだけど…周期だから仕方ないね。今回は豊作だったからなあ。」

女の子がくるりと一回りして、白いパーカーがちょっぴり浮いた。髪も身体に沿って渦を巻く。年相応にかわいらしい様子のはずなのに何かがおかしい気がしている。

「いつかみんな揃うといいな」

ここは魔界でないらしいけれど、その目の色にようやく魔界っぽい要素を見つけられて、ボクは逆に安心してしまった。






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