これの続き


志摩へ

そいや、こないだ借りたマンガ今度返すな。
あれスッゲー面白かった!
俺も買えりゃあ良いんだけど雪男がなー…。
まあ志摩に借りれたからいいか。
じゃ、また塾でな。

奥村燐




何やの、このメール。
見覚えのないメールに見覚えのない名前。さっぱり訳がわからなくなってしまったのは余りにも暇でケータイを適当にいじっていたときだった。内容は取り留めのない漫画の貸し借りの話らしいが自分にはここしばらく誰かに漫画を貸した覚えはない。ただ、何冊か見当たらないなあくらいに思っていたことをふと思い出した。もしかしたらこのメールの送り主に貸したままなのだろうか、いや、顔も思い出せないようなやつに漫画なんて貸すだろうか。
ぐじぐじこんがらがる頭の中に少しだけいらいらしながら、そういえばメールには雪男と書いてあったような、と思い当たった。雪男と言うと自分の回りには一人しかいない。奥村雪男。最年少で祓魔師になった天才の…そして自分にとっては塾の講師の。彼の知り合いなのだろうか。と、見れば最後に書いてあった名前も『奥村』であることに気づいた。奥村、奥村燐。繰り返してみてもさっぱり浮かび上がらない顔。
若先生に兄弟なんていはったやろか。
考えても浮かばないのなら仕方がない。本人に聞けば良いだろうと思考を打ち切って開きっぱなしだったケータイも二つに折り畳んだ。
ぱきり。



「若先生。ちょお、ええですか」
「どうしました、志摩君」

呼び留めるとほんの少しだけ驚いた顔をされる。まあ普段から坊のように質問する真面目な生徒でもなしに、不思議に思ったのだろう。

「あー、何て言えばええんやろ…。先生にはご兄弟とかおりましたっけ」
「はあ」

怪訝そうなのが透けて見えた。いきなりそんなこと言われれば確かにそうなるかもしれない。

「ええ、別段深い意味は無いんですよ。ただ知らんヤツからのメールに先生の名前があったもんで」

ケータイを取り出してあのメールを見せた。先生はそれをじぃと見てからふと目を逸らす。
あれ。ちょっとばかりの違和感があった。

「奥村燐…ああ、名字が同じだからということですか。メールをするくらいなのですから志摩君のほうが詳しいのでは?」
「それがどういうことか…てんで記憶にないんですよ」
「はあ」

相も変わらず要領の得ない答えばかり返す彼が珍しくて不思議に思っていると、ぽろぽろ涙をこぼして泣いているのが見えた。

「ちょ、ちょお!先生どないしましたっ」
「え、あ、はい…すみません。よくわからないです」

よくわからないのはこちらだというのにぽろぽろ零れる涙は止まらないし、多分止められないのだろう。困惑の表情を浮かべながらひたすら泣いている彼を見ているとなんだか気の毒になってきた。涙が止まらないだろうこともそうだし、俺なんぞに泣き顔見られているのもそうだし。もっと違う人があっただろうと思うと、何か変な気がした。違う人ってなんやの。なんか、先生にもっと良い人、いたんでないの。
よくわからない。
ただ目の前で泣いている人を見ていたら俺もなんとなし泣きたかったのだろうことだけはわかった気がしたけれど、こんなにも素直に泣かれてしまったから捻くれた自分は泣けないんでないか。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -