違和感が身に付き纏っている。その違和感は不快なものでしかなかったけれど原因なんて考えても考えても思い当たらない。ただぼんやりと普段通りに過ごすだけで考えはまとまらなかった。

「おはよう雪ちゃん」
「ああ、おはようございます」

しえみさんと挨拶を交わして壇上に立つと違和感は大きなものになっていた。

「どうしたの?」
「いえ…大したことではないんですが、何か変な感じがして」
「変な感じ?」
「何かが足りないような…」

そうだ、何かが足りないような気がするのだ。普段と変わりない塾なのに、何か大きなものがぽっかりそこだけ抜け落ちてしまったみたいに。

「えっ、…雪ちゃんも?」
「しえみさんもですか?」
「そう…そうなの、何かが足りない気がするの」

二人してううん、なんて頭を捻っても出てこないものは出てこない。埒が明かなさそうだったので一度それは端において授業を始めた。
授業中も何か物足りなかった。何が起こるでもないカリキュラム通りの授業、静かに順調に進むそれに違和感を覚えるなんてどうかしてる。
その日の授業が終わって一息つくと塾生たちがちらちら帰りはじめた。さようなら、なんて挨拶も聞こえて僕はそれに適当に返しながらまだ違和感について考えていた。そわそわと落ち着かない身体。

「雪ちゃん…」
「しえみさん」
「何かわかった?」
「いいえ…、何も」

そっかあ…と小さくこぼした彼女もどこかそわそわと落ち着きがない。

「あのね、わたし…忘れちゃいけないもの忘れてる気がするの…」
「……」

僕もです、小さく答えて考える。そう、忘れてはいけないようなもの。何か酷く大切なものを忘れているようで、そうだ、これは焦っているのかもしれない。
しばらくは二人でぽつぽつ話をして、暗くなってしまったから彼女を家まで送り届けた。僕も寮に帰ろうと足を向けて、そうだ、いつも夕飯どうしてたっけ、なんて考えた。僕は当たり前のように自炊なんて出来なかった。けれどごみ箱を見ても惣菜を買った痕跡なんて見当たらなくて、不思議だなあと考えた。

「あれ?」

今何かが掠めた気がしたけれど何にも思い出せなくて落ち着かない。ただ視界の端にはゆらゆら青いものが覗いている気がする。





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