指の間をすり抜ける、柔らかな感触が僕は好きだ。柔らかい日差しが差し込んでいる部屋で、その朝日に照らされてきらきら輝いてるように見えるくく兄の髪を櫛で梳く。起きているのか寝ぼけているのか、僅かに頭を垂らしたままほとんど動かない片割れに思わず苦笑が零れ落ちた。夜を溶かしたような真っ黒な髪、そして少しクセのある髪質。自分と同じようなそれに、ああ血を分けた双子なんだなぁと実感する。そうして目で、指先で、感触で、何度も何度も確かめて、僕はその度に嬉しくて堪らなくなる。

「くく兄、起きた?」

「んー…」

片割れの頭の回路は未だに繋がっていないらしい。一つに束ねた黒髪が、驚くぐらい白い首筋に映えるように揺れる。一見、ハチや先輩に比べるとくく兄は華奢でまるで女の人みたいなのに、やっぱりここ最近どこか変わってきた。掌や喉、声も首筋も、だんだん僕と違うものになっていく。そこにあるのは性別って壁かもしれないし、それ以外の何かなのかもしれない。変わっていくことの怖さを、僕は知らない。だって、変わってしまうくく兄が僕には想像ができないからだ。

ずっと、変わらないで、ずっと一緒

そんな淡い願いを、どこまで夢見ていられるかなんて、そんなの僕は知らない。知りたくない。知らなきゃ大人になれないなら、僕はずっと今の僕のままがいいのに。時間はそれを許してくれない。少しずつ開いていく距離を認めたくなんかなくて、その距離を埋めるようにくく兄の髪に顔をうずめた。柔らかな感触が頬を滑る。石鹸の香りとくく兄の香りが混ざって、甘い。ぎゅっと目を閉じて、思い切り息を吸い込む。ぎゅうと思い切り首に回した腕に、ようやく回路の繋がったらしいくく兄が僅かに私を振り向くのが分かった。どうした、くく兄の低い声が鼓膜を震わす。腕に力を込めた。

「…僕も眠いだけ」

「………、そっか」

小さく笑うのが、顔を見なくても分かった。きっとくく兄には全部お見通しだ。分かってて、それでもただそれを受け入れる。優しいくく兄。臆病なくく兄。大好きな僕の片割れ。臆病なのは僕も同じだ。胸の中にある、本当の答えを見て見ぬふり。それがいつまで続くのかは、僕には分からない。知らないこと、ばかりだ。くく兄なら分かるのだろうか。分からないのは僕だけ。何重にも鍵をかけて、分からないフリをしているから。

「…くく兄ー」

「なに、綴」

柔らかな、黒髪。それに触れて、確かめて。そうして僕は何度も安心する。君の名前を呼ぶこの声も、君に触れるこの距離も、全部全部、今だけは僕だけのもの。そうして振り返った優しい瞳に写るのも、今だけは僕だけだから。

「大好きだよ、くく兄」

「……………うん、俺もだよ…綴」

何重にも重ねた薄い嘘の膜を、どうか今はまだ剥がさないでいて。君の髪に触れることのできるこの距離が、まだ僕の物だけであるうちは。そして願わくは、永遠に僕だけのものでありますように。




永遠のパレード





(この好きの意味に、どうか気付いて)

(気付かないままでいて)




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