「…………ふぁ、?」

ぼんやりとした視界に、いつもの天井が広がる。チュンチュンという鳥の囀りと、カーテンの隙間から漏れる太陽の光。ああ、朝か…そうぼんやりと考えに至るまでなかなか時間がかかった。むくりと起き上がり、ぼさぼさであろう髪を手で掻き撫でる。ふぁと欠伸を一つ零して、眠い目を擦った。

(二度寝は我慢…)

温もりの残る布団を名残惜しみつつも離れ、ぐっと背伸びをしてカーテンを勢いよく開ける。一瞬眩しい光に目がしばしばしたが、どうやら今日もいい天気らしく、朝露に太陽の光が反射してきらきらと輝いていた。おお、絶好のお昼寝日和…!さっきまで寝ていたのに、もう昼寝のことを考えてる自分に多少呆れた。


それにしても…


(…なんか変な夢見たような…)


私は夢をあまり覚えていない。眠りが深すぎるのか何なのか、大抵は起きてから内容など思い出すことは出来ない。けれど、今日は何かがおかしかった。いつも通り、夢の内容はハッキリ覚えていない。けれど何だか変な感覚だけは残っているのだ。

じわじわと耳に響いた蝉時雨と何とも言えない郷愁感。全く顔の思い出せない誰かと、暖かかった掌を差し出して、その人が笑う声。

思い出して、思い出して、そして何だか物凄く苦しくなって、思い出すのをやめた。

「…何だかなぁ」

ふと、今何時だろうとベッドの上に放り投げたままだった携帯を手に取る。おかしいな、アラームがいつまで経っても鳴らないなんて…もしかして早起きすぎた?ぱかりと開いて、液晶画面を見て、私はさぁーっと血の気が引くのを感じた。


「遅刻だーーーーッ!!!」





「やばいやばいやばい…っ完璧遅刻だよ絶対間に合わない」

1人ブツブツと呟きながら寝癖を直し歯を磨く私は相当怪しい人物に違いないが、そうは言ってはいられない。アラームを設定し忘れた私は、誰か起こしてよ!と自分の部屋を出たものの、家族は既に仕事へ向かった後だった。ひいひい言いながら靴を履き、大して中身の入っていないカバンを引っ掴む。ささっと前髪とスカートを直していると、玄関に置かれた卓上式カレンダーがちらりと目に入った。ああそっか、今日は。

転げるような勢いで扉に手をかけた。カツンと軽やかに靴の踵が鳴る。


(……誕生日だから、先生遅刻チャラにしてくれないかな)


今日は一年に一度の誕生日。
何か良いこと、ありますように。
佐々木千鶴、本日より16歳。


運命の日





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