やっぱりどんな形でも隣にいられるってことは幸せ以外の何でもない。放課後のあの雷雨の日、俺は再びリョウに向き合った。

リョウが『彼女』と違うところ。

姿形だけじゃなくて、前よりも随分と照れ屋になったとことか、体を動かすのが好きじゃないとこ、くノ一特有のあの色気がなくなった代わりに、たまに見掛ける笑顔は穏やかで可愛らしい。

リョウは俺を『友達』だと言った。本当はそんなんじゃ物足りなくて、リョウにもっと近付きたいし触れたい。けれどやっとほんの少し縮まったこの距離が惜しいから、今はこのままでいいと思う。

いいと思う、けど。

「おはよう、好きだよリョウ。今日も一緒に帰ろう」

やっぱり少しでも早く縮めたいと思うのは最早仕方のないことなのである。

「…おはよう、寝言言うにはちょっと時間が遅いんじゃない久々知」

「大丈夫、陽が昇る前から俺は起きてる」

「信じらんない…もう年寄りだよそれ」

教室へ向かうまでの道でリョウの姿を発見して追い掛け声を掛ける。リョウは朝に弱い。これは、以前の彼女と違うところ。眠そうな顔も好き。ただ俺の朝一番の告白は相変わらずスルーされるけど、それでもきちんと反応を返してくれるまでになった。

「ねぇリョウ、一緒に帰ろう」

「久々知部活でしょ、終わるの待ってるなんて絶対嫌」

「今日は休み、だから大丈夫」

「…………」

「よッ!佐々木と兵助が一緒にいて佐々木が大人しいなんて珍しいな」

「竹谷おはよう、さっそくで悪いけどコレ回収して」

「はっちゃんおはよう」

「あはは頑張れ兵助〜」

「うん」

「こんの薄情者…!!」

ずいっと恨めしそうにリョウがはっちゃんに詰め寄る。顔が近い。とっさにリョウの袖をグイッと引っ張った。

「おわっ!?…なに!?」

「ダメ、近い」

「悪ぃ悪ぃ、んじゃ俺先行くな〜」

「あ、ちょ…竹谷!」

「リョウはこのまま俺と行こう」

「このままって…手を離せ!手を!」

「嫌だ」

振り解こうと必死なリョウの手を堅く握りしめ、そのまま教室へ向かう。ああ幸せだ。





「おはよう兵助、その後ろの疲れ果ててるのは佐々木?」

「おはよう勘ちゃん」

「尾浜…私もう疲れた帰りたい…」

「ダメだって、一緒に帰るんだから」

「帰りません、一人で帰ります」

「この間は帰ってくれたのに、全速力だったけど」

「大雨で雷まで鳴ってんだから早く帰りたいに決まってんでしょ。大体あれは一緒に帰ったんじゃなくて、久々知が後から追い掛けて来たんでしょ」

「急いで着替えたのにリョウが先に行っちゃうから!」

「…なんかよく分かんないけど、随分仲良くなったんだねぇ」

「仲良くない!!」

「ホント、そう見える?」

にこにこしてる勘ちゃんに思わず俺も笑顔になる。少しずつだ、少しずつ距離を詰めていく。そうすれば、リョウが過去の記憶を取り戻さなくても、俺はリョウの隣にいられる。初めは何が何でも思い出して欲しかったけど、今はこのままでも幸せなんじゃないかと思ってる。記憶を取り戻すということはリョウは自分自身の最期まで思い出させられるということだ。そんなの絶対苦しい、悲しい、辛い。何を思って死んでいったかなんてあの時隣にいられなかった俺には想像もできないけれど、きっと「死にたくない」って思いは強かったはずだ。

だから今度こそ、最後の最期まで俺はリョウの傍にいる。怒らせたり困らせたりすることの方が多くて、俺に向けて笑ったことなんか一回もないけど、それでもいいんだ。ただ、ひたすらにリョウが好きなんだ。それだけだ。




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