「リョウ、…?」

「………はい?」


それは桜の舞う暖かい4月の初めのことだった。苦しい苦しい受験地獄を終え、見事この大川学園に合格した私、佐々木リョウは、高鳴る鼓動を抑えつつ校門をくぐり抜け、花の女子高生生活の第一歩を踏み出したところだった。そう、本当に今まさに。これからは勉強よりも恋に友情に、青春に学校生活を捧げていこうと自分の中で決意した第一歩だったんだってば本当。それが一体どうしたことでしょうか、桜吹雪に乱れる髪を手で押さえつつ聞き覚えの無い声に振り返れば、そこに立っていたのは見ず知らずの男子生徒。これでもかというくらいに目を見開き、手に持っていたらしい鞄は地面に横たわっている。彼の真っ黒なさらさらした髪が春の風に無造作に揺れて、何だか別世界みたいに綺麗な光景だった。なんて長い睫だろう。私も彼も、時が止まったみたいに瞬きも忘れて見つめ合う。なんだかドキドキと心臓が五月蝿い。もしかしてこれは入学早々に心の春到来みたいな感じだろうか。嘘でしょ、早すぎるでしょ。っていうか何でこの人私の名前知ってるんだろう。


「リョウ!!!」

「うへぇえ!?(ちょっと何この状況!)」


彼が感極まった表情で駆け出したかと思うと、次の瞬間には私の顔は彼の胸板にぎゅーっと押し付けられていた。そんでもって背中にはそれはもう抱き潰されるかと思うほどに固く彼の腕が回されている。一瞬真っ白になった思考を奇声を上げながらどうにかこうにか取り戻して、自分の状況について本気出して考えてみた。うん、これはどこからどう見ても見ず知らずの男子生徒に思いっきり抱き締められているとしか言いようがないよね。


「ちょ…いきなり何!?離してこの変態!」

「やっと見つけた…」

「はぁ?」

「ずっと、リョウを探してた」


人の話を聞いているのかいないのか、突然肩を掴んだかと思うと勢い良く体を離してイケメンな部類に入るであろう顔でまじまじと私の顔を覗き込んだ。いやあの、すいません。美形にはあまり縁がないものだから無意識のうちに顔が赤くなるのは仕方のないことだと思います、ハイ。っていうか私さっきからされるがままなんですけど、この人一体私の何なんでしょうか。これだけ特徴が揃ってるんだから、昔会ったことがあるなら絶対覚えてると思うんだけど。全くもって思い当たらない。


「すいません、人違いじゃ…」

「俺がリョウを間違えるなんてあるわけない」

「いや、あの…でも私達、初対面、ですよね?」


恐る恐るそう言えば、そこで初めて彼の動きが止まる。キョトンとした表情を浮かべたかと思えば、先ほどまでの表情とは打って変わって怪訝そうに私を見下ろしていた。え、なになに?もしかしと怒らせちゃったわけ私?うそうそ!?だって仕方ないじゃん!


「まさか…覚えてないのか?」

「す、すいません…あの」


目に見えて愕然としている彼に、今度は別の意味で慌てる番だ。どうしようこういう場合私どうしたらいいんだろう。忘れちゃってすいませんって言うのも何かあれだし。っていうかそもそも絶対この人と私初対面だし…まぁ、向こうは違うみたいだけど。どうしようどうしようとプチパニックを起こしている私の肩に、もう一度優しく彼の両手が置かれた。


「気にしなくていい」

「…ご、ごめんなさい」

「忘れたものは仕方ない」

「はぁ、」

「心配しなくても、必ず俺が思い出させるから」

「…………は?」


彼の顔に浮かんだ満面の笑みが何故だか脳裏に焼き付く。思わずドキッとしてしまったなんてのは秘密だ。だってまるで太陽みたいに笑うんだもん。惚けている私て向かい合い彼が言ってのけた言葉とこの笑顔、私は生涯忘れないことだろう。



「夫婦になろう、リョウ」



嵐のような告白




「リョウ!今日こそ結婚しよう」

「あーもう久々知うるさい!しないって何回言えば気が済むのあんた!」

「兵助だってば」

「そうじゃなくて!大体何でいきなり結婚にぶっ飛ぶわけ!?」

「じゃあ付き合おう」

「誰か通訳呼んでー!!」


入学式の嵐のような告白からかれこれ2カ月経っているが、この久々知兵助という男は未だに暇さえあれば求婚してくる。おかしい、頭が。当初は興味津々だったクラスメート達も、いまではすっかり慣れ親しんだ光景のようで見事なまでにスルーされてしまっている。ちょ、ホント誰か助けて。おまけに久々知と私同じクラス。恨んでやる神様…!


「いい加減諦めろって」

「完璧他人事だと思ってるでしょ鉢屋この野郎…!」

「他人事だし」

「こんの薄情者ー!!」



神様神様!あのうっとおしい男!どうにかしてください!



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