※「プリズム」天女サマ視点



目が覚めてみて驚いた。何と言ってもここが見たことも無い世界だったのだから。見覚えのない天井、嗅いだことの無い独特の香り、ここはどこだと不安に駆られたあの日。どうやっても帰れない事実と、紛れも無い真実。始めは家恋しさに枕を濡らす日々だった。

しかし今現在では…………


「今日はいい天気ですねぇ〜」

「そうですねぇ〜」


ほのぼのとお茶を手に伊作君を筆頭とした保健委員のみんなと和む。あれから数日が経ったが、ここが忍術学園と呼ばれる場所であることや、過去の世界であることを私は知った。そして私も正直に自分が未来の人間であると言うことを打ち明けた。始めはみんな半信半疑(というかほぼ疑われていた)だったが、着ていたものだったり偶然かばんの中に入ってた携帯だったりお金だったり、証拠は十分なようで今は信用してもらっている(といいな)。でもやっぱり天女様なんて大それたことを言われることもある。なんでだろう、天女様って羽衣持ってるんじゃなかったっけ?あ、もしかしてショールが羽衣だと思われてるのかな?まぁそれはいいとして、現在はこうして保健室で療養しながら、会いに来てくれる忍たまの皆と交流を深めてる。そんな昼下がりだった。


「あぁ、すみません突然。六年くのいち教室の佐々木リョウです」

「あ、はい…天城鈴です、えーと」

「大丈夫、噂はもう聞いているから」

リョウさんのそんな言葉にホッと息を吐く。くのいちの子はリョウさんの他に何人か見掛けたことがあるけど、上級生は初めて。やっぱりどこか纏う雰囲気も違う。すごく綺麗に微笑むのに、何故か背筋がぞくりとする。圧倒される、そんな言葉がぴったり。傍らで伊作君もわずかに体を震わしていた。同じ六年生でもやっぱりそう感じるんだ。くのいちってすごい。

「リョウ…?何か企んでる…?」

「いいや何にも?何言ってるんだろうね善法寺は」

あ、伊作君とも知り合いなんだ。善法寺君、なんかすごく怯えてるみたいだけど。何か怖いことでもあるのだろうか?わからない。そんな彼女は、一緒に入ってきた紺色の制服の男の子を肘で突付いている。鉢屋と呼ばれた彼は、こちらを惚けた顔で見つめていた。そ、そんなに私珍しいのかな。とりあえず笑っておいた。困ったときは笑顔が一番よね。

その瞬間、リョウさんが口元を手で押さえて何故かこちらを見つめながら感極まった表情で大きく頷いた。何だろう、あ、ありがとうとかそういう意味かな。えへへ。にこにこしている彼女の後ろ、気付かなかったけれどいつのまにか他にも紺色の制服の子達がいた。口元に手を当ててしぃーって伊作君にやってる。その中のまん丸な目の髪の長い男の子がそっとリョウさんの耳元に近づくと、何かを呟いていた。何だろう、何か見てはいけないものをみてしまったような。

「ひわぁ!」

リョウさんが可愛らしい声をあげた。それと同時に鉢屋君の視線が外れる。何かホッ…。そうこうしているうちに紺色の四人が入って来て、リョウさんにべったりとくっついた。わぁ…っ、ハ、ハーレムって言ったらいけないかしら私。はしたないかしら私!ほんのりと頬を染めながら見ていいものか迷っていると、

「天城さん、こいつら五年の忍たまです。どうぞ仲良してやってください是非!」

「は、はぁ…」

すごい剣幕に思わず気の抜けた返事を返してしまった。どやどやと目の前に整列させられている五年の忍たまの子達。とりあえず、挨拶は大切よね…きっと時を越えても!

「よ、よろしくね!」

はにかんでみせれば、目の前の男の子達がこちらを向いたまま固まっていた。えええ!?だから何で!ぽかーんって音がぴったりなくらい、ポカーンとしてる。そして彼らの後ろのリョウさんは先ほどのように大きく頷いている。何故か親指まで立てられていた。え、と…グッジョブってことなのだろうか…私なにかしました…?

「さぁて、私シナ先生に呼ばれてるからちょっと行ってくるかな」

そう言って彼女は立ち上がる。あれ、もう行ってしまうのだろうか。まだあんまりお話できなかったんだけどな…また、来てくれるのだろうか。そんな期待を込めながら立ち上がる彼女を目で追う。何と言うか立ち居振る舞いの綺麗な人。一本筋が入ってるみたいにまっすぐで、凛としている。そんな彼女が、すっとこちらへ視線を向けた。

「天城さん…これからよろしくお願いしますね」

にこりと今までで一番綺麗に彼女が微笑む。ふわぁ…こんなに色っぽく微笑むなんて、なんて素敵なんだろう。大人の色香漂うっていうか、何ていうか、フェロモンむんむんみたいな!現代的に言っちゃえば峰不○子がお宝を目の前にしてル○ンに色仕掛けしてるみたいな!あれ、何かおかしいかも。けど、そんな感じ。あ、でもそうなると彼女にとってのお宝って一体何になるんだろう。とりあえず、私は引っ繰り返りそうな声で、

「は、はい…!」

と何度も頷いておいた。足音もなくするりと保健室を出て行くと、静かに障子が閉められる。くのいち上級生恐るべし。思わずお姉さまとか言いそうになってしまった。可笑しいな私の方が年上な筈なんだけど。

「はぁー…すごいねぇ、くのいちって…」

「本当にね、恐ろしいよくのいちは」

「?恐ろしいの?」

そうなのかな、私この時代の峰不○子見れたみたいで嬉しいんだけどなぁ…。

「あ、そういえば自己紹介がまだだったよね、私天城鈴、この間から忍術学園でお世話になってます」

「あ、えーっと…不破雷蔵、忍たま五年です」

「鉢屋三郎、同じく五年で、雷蔵の顔を借りてる」

「鉢屋先輩は変装の達人なんですよ」

「そうなんだ!双子かと思っちゃった!」

「五年の竹谷八左ヱ門ッス!よろしく」

「久々知兵助、五年です」

「同じく尾浜勘右衛門です」

みんないい子だな!仲良くなれるといいんだけど。


「それにしても、ねぇ三郎?」

「あー…参ったな雷蔵」

「リョウ先輩、やけに生き生きしてると思えば、これを狙ってたんだな」

「ったく、ホント生粋の“くのいち”だぜあの人」

「利用できるものは何だって利用する、ってことだね」

「???」

一体、何の話をしているのだろう。彼らは互いに顔を見合わせながら参った参ったと苦笑いを浮かべていた。話に付いていけない私は思わず首を傾げてしまう。

「なんだってこんなことするんだろ…」

「私たちのためだって言うぞあの人」

「そうだな」

「そうだね」

「っかー!分かってないぜ、リョウ」


「伊作君…何の話かな…」

「あーそういうことね……うん、天城さんは知らない方がいいと思うんだ僕」

「え?え?」

本当にどうしたんだろうみんな。よく分からない話してるし、それに伊作君も遠い目してるし…。ちょっぴり疎外感?なんちゃって。

「どうやらリョウはどんだけ俺達が本気か分かってないみたいだな」

竹谷君が二カッと挑戦的に笑う。

「確かに美しいものは好きだ、でもな…やっぱりそれだけじゃ物足りないな」

鉢屋君がにやりと口元に笑みを浮かべる。

「あれだけ毎日そう言ってるのに、まさか伝わってないなんてね、僕びっくりだよ」

不破君はにこりと満面の笑みで首を傾げた。

「ってことはだ、まだまだ足りないってことなんだろう?」

久々知君が長い睫を伏せながら、納得したように返す。

「そっか、じゃあ俺達もっと頑張らないとだね」

尾浜君はぱっと表情を明るくさせた。

五年生の子達がにっこりとお互いに顔を見合わせて笑いあう。とても素敵なのに、何でだろうちょっと怖いとか思ってしまったのは。

「鈴さん鈴さん、いつものことですから」

そう言った乱太郎君は私の癒しです。ありがとう



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