上機嫌で学園への帰路を辿りつつ、足取りも軽やかに着物の裾を揺らす。ようやく訪れた平穏な日々、それもこれも天女サマのお陰だ、彼女には本当に感謝しなくては。

「ただいま戻りました、小松田さん」

「お帰りリョウちゃん!何だかご機嫌だね〜、珍しく五年生のみんなはいないみたいだけど…」

「ああ、あいつらならきっと天城さんのとこじゃないですか?この間挨拶に行きましたので」

「そっかぁ、天城さんニコニコしてて話しかけやすいもんね。すぐ仲良くなれそう」

「本当に。まさに天女サマ、ですね。私も彼女には感謝しています」

「?、感謝?」

「いえ、なんでもありません。それじゃ戻ります」

「あ、うん…また明日」

ひらりと小松田さんに手を振って、くのいち長屋へと学園内を突っ切っていく。今日の夕飯はなんだろうか、おばちゃんの料理はなんでも美味しいけれど、それに私の好物も入ってれば最高だ。真新しい髪紐に、真新しい紅二つ、気分も一新してますます勉学に励まなくては。

「あ、リョウさん」

歩く私の耳に、鈴音のような声が届く。声の方へ顔を向ければ、何だか大名行列か何かのような一行がいた。

「ああ、天城さん。驚きました。百鬼夜行か何かかと」

「え?」

「いえいえ何でもありませんよ」

天城さんを筆頭に各学年の制服が見え隠れしている。相変わらず善法寺の顔は面白いくらい緩みきってるし、あの立花すらさも当然の顔をして天城さんの隣を陣取っている。なんだこの年功序列な百鬼夜行は。総大将は天城さんか。

「ひぃ…っ、あ…あれはくのいち六年の佐々木リョウ先輩…!!」

「笑わない泣かないの鉄仮面が鈴さんと朗らかに会話してる…明日は嵐か…」

うるさい聞こえてるぞ。

「どこか行ってたの?」

「私事で町まで。天城さんは今から掃除ですか」

「うん、よく分かったね!」

「竹箒を持っているので」

彼女の細腕に握られているそれを指差せば、ああそっかとニコニコ笑顔を浮かべていた。そんな彼女に取り巻き共はホゥ…っと熱っぽいため息を吐く。無駄に息が揃ってて何だか気持ち悪いぞお前ら。顔をひきつらせた私に、立花がにやりと嫌な笑顔を向けてきた。

「リョウも少しは天城さんを見習って愛想良くしてみたらどうだ」

「冗談言うな、こないだ愛想笑いしたら善法寺が全力で引きつってたよ」

「ほう」

「う…だっ、だって、」

「慣れないことはするもんじゃないってね」

肩をすくめて見せた後、目をパチリと瞬かせている天城さんの周囲を見渡す。ちらりと目に入った紺色。私の口端が自然と上がる。善法寺の「また何か企んでる…」という呟きが聞こえたが全力で無視した。そうか、あいつらちゃんと“心変わり“というものをしたんだな。何だよ今まで散々付きまとって来たくせにアッサリ乗り換えやがって寂しいじゃないか…

(…とまぁ、普通は考えるんだろうけどね)

生憎私にはそんなものは備わっていなかった。今は開放感とそれに伴う高揚感しかない。寂しいなんて思うようなら最初からこんな面倒なこと誰が考えるものか。私は自分に利益のあることしかいたしませんので。

「それでは」

「あ、うん…またね!」

さてこんなことに足を止めてる場合じゃない。私には美味しいおばちゃんの料理が待ってるのだから、行かなきゃ。

「ああ、そうそう最後に」

足を止めて振り返る。箒を手にキョトンと首を傾げる彼女、天城鈴。あなたは十分、利用価値のある私の天女サマ。見え隠れする紺色装束、こちらを見向きもしない彼らと天女サマへ、瞳を細めて口元を緩める。さぁ立花、これで満足だろうか。鉄仮面を少し外してあげよう。


「皆様どうぞ、仲睦まじく」



これでおしまい




「あ…あのくのいちの二大双璧が…」

「笑った…」

「明日は槍が降るのか…!?」

聞こえてるっての、阿呆共。


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