好きだった、大好きだった。

大好きだから、雷蔵が幸せなら私も幸せだった。幼い頃からずっと一緒で、私の後ろをちょこまか付いてきた雷蔵。笑顔が可愛くて、本が好きで、頭が良くて、いつだって誰にだって優しかった雷蔵は、私の自慢の幼なじみ。他人の幸せを願える彼に、私は誰よりも幸せになって欲しかった。


「聞いてリョウ、僕ついにあの子に好きだって言ったよ」


すごくすごく迷ったんだけどね、ってはにかみながら笑った雷蔵は本当に幸せそうで、嬉しそうで、私の大好きな表情だった。私は笑った。良かった良かった本当に良かったね雷蔵、そう言えばますます顔をへにゃりと緩めて笑った。これで正解。

ただ、
チクリと私の胸を刺したこの痛みに、私は知らないフリをして誤魔化した。これは私が気付いちゃいけない痛みだ。だから知らないフリを続ける。こんなこと何てことない。嘘を付くなんて私にとって呼吸にも等しい。ただその嘘を付かなければいけない相手が自分自身だというだけ。難しいね、けどやってみせるよ。雷蔵が幸せになれるなら、私は何度だって嘘を付いてみせる。

苦しいともがく私を更に沈めて、息の根すら止めてやるの。


「良かったね雷蔵、今幸せ?」

「うん」


そう微笑む雷蔵が私にとっての全て。これでいいの。私はこれで幸せ。その証拠にホラ、私はちゃんと笑えているでしょう?


「リョウ、リョウ、もしもリョウに好きな人ができたら僕に必ず教えてね、約束だよ」

「うん、…約束ね」


交わす指切りは、繋ぐ前から既に断ち切られているけれど、それすら偽ってみせる。馬鹿な女と罵ればいい。そんなこと、とうの昔に承知なのだ。

私の可愛い大好きな幼なじみ。
たとえ、何を犠牲にしようとも。
私があなたの幸せを守り抜く。

どうか雷蔵、

君に幸あれ



深海魚の泪



(殺したものはなあに)

(泣き叫ぶのはだあれ)
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