とにかく僕はリョウが欲しかった。くのいちの癖して鈍くさくて、落とし穴の中から僕を睨み付ける瞳をどうしてもずっと僕だけに向けさせたかった。そのためにどうすればいいか考えた。考えて考えて夜が明けた。見かねた三ちゃんがにこりといつもの笑顔でこう言った。


「じゃあ捕まえちゃえばいいよ」


さすが三ちゃん、それ名案。



一日目
罠を仕掛けた。落とし穴だ。自力で登ってこれないように傾斜を付けた落とし穴。リョウが落ち次第そのまま速やかに捕獲。ちなみに落とし穴製作のお陰で僕は完徹だ。ちょっとテンションハイになってる。


「そう何回も引っ掛かってやる程、私だって馬鹿じゃないの、笹山」


僕の隠れる草陰に向かってべぇっと舌を向ける。カラカラと勝ち誇ったような笑い声がムカつく。手に入れたらまず第一に接吻をお見舞いしてくれる。勿論ふっかいやつだ。


二日目
今度は板を踏むと上から網が降ってくるカラクリを用意した。リョウが上から降ってきた網にもがいてる間に速やかに捕獲。ちなみにカラクリ製作のお陰で僕はまたしても完徹だ。ちょっと手元狂いそう。


「残念ですが学習能力というものが私には備わってるんです〜」


落ちてきた縄を懐の苦無ですぐさま切り裂かれ、敢えなく抜け出されてしまう。ヒラヒラと振った掌が子憎たらしい。僕の物になったらもうその掌を離してやるもんか。ああムカつく。


三日目
リョウの大好きなお団子に眠り薬を仕込んだ。今まで意地悪してごめん、これはそのお詫びだよっていう僕の有り難いお言葉付き。感動に咽びながら有り難く食べて眠ればいい。その間に捕獲だ。ちなみに眠り薬は渋る乱太郎を脅して手に入れた。けど団子が上手いこといかなくてまたもや完徹だ。そろそろ頭もフラフラだ。


「……笹山がお詫びとか、怪しすぎて絶対無理。何か仕込んだでしょその団子」


僕の努力を粉々に粉砕するかのように、団子には見向きもしないで逃げていく。ムカつくあまり団子は伝七に食わせた。三秒で眠った。こんなによく効くのにリョウのやつ無駄にしやがって。僕の物になったらもう毎晩寝かせてなんかやらない。


四日目
そろそろ直接的に手を下さないと拉致があかない。それに寝てないせいか思考もうまく回らなくなってきた。縄標でいこう。鉤縄でもいい。リョウは鈍くさいからきっとすぐ捕まるはずだ。僕だって我慢の限界。ちなみに隙を伺うためにずっと張り付いてたから今夜も完徹。もうここまできたら捕まえるまで僕は眠らない。


「ついに原始的なやり方に出たんだ笹山、でも残念私今日一日実習で学園にはいないんだ」


丸太へ縄標の端をくくり付けながら、リョウはそれじゃあねと去っていく。鈍くさい癖に何で避けちゃうわけ。…もしかして僕との攻防がリョウの鍛錬になっちゃったなんてわけないよね。捕まえたら思い切り抱き締めてやる。


五日目
もうなりふり構っていられない。そして安眠したい。僕はついにこの身一つでリョウを捕まえるために追い掛けることにした。僕はまだ眠れない。


「む…無言で追い掛けるのやめてくれる!?最近何なの私あんたに何かした!?」


必死で逃げるリョウを僕も必死で追うけど、何かおかしい。いつまで経っても距離が縮まない。足に力が入らなくていつもみたいに速く走れない。いつもならとっくにリョウなんか余裕で追い付いて捕まえてやるのに。早く捕まえてリョウを抱き枕にしてやるんだ。それなのに体は上手く動かない。


六日間
僕はぶっ倒れた。乱太郎曰わく睡眠不足だそうだ。通りで縄標も上手く命中しないし体に力も入らないわけだ。今日はリョウを捕まえられない。


「兵ちゃん、押してダメなら引いてみろだよ」


三ちゃんはニコニコそう言った。引くってなにを引いたらいいのか。もう眠くて眠くて溜まんないせいか何も考えらんない。


七日目
目を覚ますと朝日が部屋に差し込んでいた。眩しい…そっか朝なんだ。僕は昨日から寝続けてたってわけか。


「笹山…?」


カラリと部屋の扉が開いて、小さく声が掛けられる。扉からひょっこり覗かせた顔を見て僕は固まった。あれだけ何日間も追い続けたリョウが、今目の前に来ている。


「……リョウ…?」

「夢前から笹山が倒れたって聞いて…うわーちょっと顔色最悪、大丈夫なの?」


ふわりとリョウの手が僕の目を覆う。冷たくて気持ちいい。欲しかったこの手が、声が、眼差しが、今僕だけのために向けられる。思わず僕に触れるリョウの手を掴んだ。ああやっと、



「捕まえた」



驚いて固まったリョウの腕を引いて、そのまま僕の腕に閉じ込める。これは僕のもの、もう誰にも渡さない、逃がさない、離さない。


「さ、さやま…?」

「やっと捕まえた、ちょこまか逃げるなんてリョウの癖に生意気。さっさと僕のものになればいいのに」

「…もしかしてここ数日のあの異常なまでの罠と仕掛けは…」

「リョウが欲しかったからに決まってるでしょ」


そう言ってやれば、耳まで真っ赤にして視線をさまよわせている。馬鹿、ちゃんと僕だけ見てなきゃ駄目。むっとして頬を両手で包んで、こちらを向かせる。パクパクと口を開閉させる姿はまるで金魚。何か言いたそうに唇が戦慄いた。そして彼女は蚊の鳴くような声でこう呟いた。



「……は、初めからそうやって言ってくれれば良かったのに」



どうやら君を捕まえるために、余計な小細工は必要なかったらしい。



君を手に入れるための7日間




「というわけでリョウは今日から僕の物、僕の睡眠時間を見事に削ってくれたお礼をたっぷりしてあげるからお楽しみに」

「すいませんやっぱり無しの方向で」

「撤回は聞かないよ、じゃあまずは接吻ね、ふっかいの」

「いや、ちょ…待っ…!!」





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