多分、彼女にとって「忍」の道は苦しく辛い茨道だったのだろう。心優しかった彼女が家族のためにと必死に震える掌を抑えつけながら心を修羅にして人を殺す様は、まるで見ていられなかった。彼女は決して泣かなかった。辛いとも苦しいとも言わなかった。だから僕はいつだって気付けなかった。掌の傷には気付けていたのに。見える傷しか、僕は手当てをすることが出来なかった。

「もぉ、また無茶して!これで何度目だいリョウ!」

「あはは、ごめんってば。でも何だかんだ言いながらも伊作はいつも手当てしてくれるね」

「………保健委員長だからね」

「ありがとう。頼りにしてるよ」

リョウはいつだって笑っていた。それこそ震える掌で人を殺した後だって、背中を少し丸めた後で振り返った顔は困ったように笑っていた。それから言った。「大丈夫」だって。



今更気付いたって遅い。彼女の「大丈夫」はいつだって助けを求めていたこと。苦しい辛い逃げ出したい、そんな心の叫びの何もかもを押し殺して吐き出した「大丈夫」の言葉。それの一体どこが大丈夫だったと言うんだ。傷は掌だけじゃなかったんだろう。ボロボロで傷だらけだったのは、心だったんだろう。


僕は、いつだって気付くことができるはずだった。だって彼女の隣でいつだって包帯を持って追い掛けていたのは、この僕だ。心の傷に気付けるのは、僕だったのに。



白夜に沈む




助けてを言うのが下手くそだった君は、もうこの世界のどこにもいない。



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