麗らかな陽気の昼休みである。そんな平和な時間をぶった斬って、白い毛玉が突然立ち上がり叫んだ。

「よし、どっか行こうぜ!」
「「…………」」
「うっす!反応うっす!」
「うんごめんなんかテンションに任せただけの中身がない発言にイラっとした。よしって何のよし、どっかってどこ」
「え、ちょ、何?絢音今日機嫌悪くない?」
「あの日じゃね」
「…」
「ちょ、ごめん無言でフォーク構えるのやめて?それはタコさんを刺すものであって銀さんを刺すものじゃないからつーか言ったの高杉だし!」
「3日目なんだよコノヤロー!」
「え、正解だったの?!」

勢いよく空を飛んだわたしのフォークは銀時を掠めて、その後ろにいた辰馬のもじゃもじゃに音もなく吸い込まれた。
「……」
「あーあ、そのフォークお気に入りだったのに」
「おい、この子いま、暗に“もうこのフォーク使えないわ”って言ったよ」
「んーなんじゃー?」
頭にフォークが刺さってるのにご機嫌な辰馬。え、ほんとどうしようフォーク。何かいろいろシュールすぎる。

「で、銀時さっきのは何だ」
ひとりもくもくとお弁当を食べていた小太郎が空気の読めない発言をする。何で混ぜっ返すかなあもう。
途端に銀時が生気を取り戻した。
「精気も取り戻したぜ!」
「文字にしなきゃわかんないようなボケをするな。ていうか精気って別に銀時が考えてる下的な意味じゃないからね」
「え、出しちゃうぜ的な気じゃないの?」
「阿呆じゃのう金時!精液の精は精神の精でもあるがやき」
「なんでそっちが基本型みたいになってんの!?どっちかと言えば精神の精でしょ!」
「あーゲシュタルト崩壊」
「精のゲシュタルト崩壊って何かアレじゃね」
「どれだよ、中二は黙ってろ」
「やべーよ、三日目半端ねえなホルモン乱れまくりだよ、突っ込み容赦ねえよ」
「高杉ー、元気出しや」
「うるせえ慰めんな」
「貴様ら、話を逸らすな」
「お前は話を戻すな!」
「何だ絢音、機嫌が悪いな」
「あの日じゃね、」
「みっ「もういいわこの流れ!」

ばん!と銀時がコンクリートをぶっ叩いて立ち上がった。それを心底めんどくさそうな目で見るのは晋助。我関せずで笑っているのは辰馬。卵焼きを刺した箸を握りしめて電波なのは小太郎。わたしはとりあえず碌なことを言いそうにない白毛玉を、その発言内容によってはすぐ蹴り飛ばせるように足首のストレッチ。捻挫とかしたくないからね、うん。

「授業サボろうぜ!」

……あれ。何か今白毛玉にしては良いこと言った?ストレッチ中のわたしの足首は標的を失って、それでもストレッチが勿体ないからとりあえず銀時を蹴り飛ばす。
「いいねそれ!」
「ってえええ?!え、ちょ何?言ってることとやってることが喧嘩してるんだけど!長年相容れない野球部の部長とサッカー部のキャプテンくらいいがみ合ってるんだけど!」
「ごめん、せっかくストレッチしたのにってわたしの足首が言うから」
「俺の知ってるお前の足首は喋りません!」
「ちょっと見ない間に成長すんのよ」
「年頃の娘か!」
「まあ似たようなもんね」
「全然違うわ。何なのお前、生理だと機嫌悪いかボケるかなの?」
「乙女の前で生理とか言ってんじゃねえよ死ぬかコラ」
「きゃあああ不機嫌モードキターー」
「古、」

というわけで、今から授業をサボることになりました。


「ってコラ、なに地の文で纏めようとしてんの」
「んー?だって会話文ばっかで飽きたかなあと思って」
「誰が?ねえ誰が?」
「うるさいな、メタフィクショナルな話してんなよ」
「それお前!」

ぎゃあぎゃあと喧しい銀時から指揮権を頂戴したわたしは、その他3人とサボタージュ計画をたてることにした。なんたって、5人揃って大遅刻した上、罰掃除を途中で放り出した前科のあるわたしたちだから、途中でバレれば全ちゃんに何をされるかわかったもんじゃない。
「掃除放り出したのは絢音のせいだけどな」
「うるさい晋助。その眼帯の下に健康な左目があること全校女子にバラすよ」
「……」
「まじでか、え、じゃあ高杉お前なんで眼帯してんの」
「銀時、そこは触れないでやれ」
「黒歴史っちゅうやつかにゃあ」
「辰馬ああ駄目ええ黒歴史とか、晋助はこれ現在だから今だからなうだから!」
「高杉眼帯なう\(^O^)/」
「……ぷっ」
「おい今笑ったの誰だ」
「まあ茶番はそれくらいにして」
「お前か!」

幸いこのあと午後は全ちゃんの授業がない。今日は職員会議の日だからSHRもないはずだ。ということは、学校を出るまでに全ちゃんに見つかりさえしなければミッションコンプリート。教室から鞄やらを取ってきて靴を履き替え校門を出る。昼休みだから校門を出入りする生徒は少なくないとは言え、そういう奴らは近くのコンビニとかに出向くだけだから持ち物は財布と携帯くらいの軽装だ。いくらなんでも鞄を持ち歩くのには不自然な時間帯である。十分な注意が必要だろう。
「鞄なんか学校に置いてきゃいいだろ」
「馬鹿、放課後全ちゃんが戸締まりしに教室来ること知らないの?うちらの鞄だけ置いてあったら不自然でしょうが」
「というか、教科担任の出席簿でバレると思うのだが」
「んなもん代返しといてもらえばあのもうろくじじいは気付かないよ」
「おい何かさり気に言葉が辛辣なんだけど」
「あのひと、わたしのことをいやらしい目で見てくるんです…!」
「どこのセクハラ被害妄想のOL?」
「誰に代返してもらうんじゃー?」
「自分に似た声の奴に自分でお願いして」
「似た声…」
「もしくはモノマネでも可」
「アハハハー金時くーん」
「誰、似てないよ」

ふと思い付いて携帯を見る。お昼休みはあと10分しか残っていなかった。予鈴までは5分しかない。予鈴が近付くと先生たちも授業の準備に廊下をうろつき始めるからわたしたちは集団行動を避けて各々の準備を済ませてから再集合することにした。


「5分後に、裏門前で!」
「それなんてワンピース?!」
「みんな!死ぬなよ!」
「死ぬか!」

#08.princess is sullenly about her servant
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