まったく今日は妙な一日だ。


朝、めずらしく遅刻でない銀時と会って、その自転車の後ろに乗せてもらい登校していたら途中で銀時が女の子に声を掛けられた。銀時は自転車を下り、ちょっと待ってろとわたしに命じると道の隅っこに移動し他人様の家の壁に寄り掛かって女の子の話を聞いた。つまるところそれは告白だったわけで。そしてさらにつまるところ、わたしは別に聞きたくもないその告白の一部始終を、銀時の自転車を手に聞かされていたのだ。女の子は明らかに、あれ誰的な目でわたしを見ていたのだけれど、馬鹿な銀時は気がつかなかったらしい。しかもあれだけ普段女に飢えているくせに銀時はその告白を断った。白い毛玉を好きになってくれるのなんて物好きか猫だけだというのに勿体ない、と思ってから、そういえば何故かその物好きが多いんだったと思い出す。ああ、世も末だな。


それが朝のことで、昼休みには購買でわたしにパンを買ってくれていた辰馬が女の子に声を掛けられた。辰馬はわたしに財布を持たせて、ちっくと待っとってくれ、と狭い購買の隅っこで女の子の話を聞く。銀時にしろ辰馬にしろ、もうすこしわたしから離れて告白されてくれないかと思ったのだが、いかんせん馬鹿なのでそこまで頭が回らないらしい。それとも彼らはわたしのことを空気か何かだと思っているんだろうか。そしてこの馬鹿もご丁寧に告白を断った。こいつを好いている物好きも多い。まったく、世も末だ。


そして放課後、掃除当番だったわたしと小太郎がごみ捨てに向かっていると、両手に燃えるごみを抱えている小太郎に声が掛かった。一世一代の告白だったら何も相手がごみを持っている時じゃなくてもいいだろうに。果たして、小太郎は燃えないごみを両手に持っていたわたしに自分が持っていたごみ袋を二つ押し付けるとその場で女の子の話を促した。明らかにわたしにゴミを持たせる必要がない。仕方ないのでわたしは先にゴミ捨て場に行っていようと許容オーバーのゴミ四袋をどうにか引きずり歩き出す。すると小太郎がくるりと振り向いて、「引きずるな、破れるぞ」と言うのでわたしは仕方なくその場に立ち尽くした。あさっての方向を向いて必死に、聞いてませんよアピール。ああもう、なんだってわたしがこんなに気を使わなきゃならないんだ!せめて一人の時に声掛けるとか!あ、もしかしてあれか、告白に見せかけてわたしへの遠回しな嫌がらせか、まずは精神的に追い込もう的な。勘弁してくれ、わたしのメンタルはもやしなんだよ。不自然にそっぽを向いていたわたしに小太郎が行くぞと言ってゴミ捨て場へと歩き出す。ぐるりと首をねじれば友達に慰められているさっきの女の子がいた。優男な面してこいつも女の子に容赦ない。ああ、世も末だ。


ゴミ捨ての帰り、どこからか女の子のヒステリックな声が聞こえて、ああこれはまずいと小太郎と目配せする。確実にあれは晋助絡みの女だ。何回か晋助が欝陶しそうに相手をしているのを見たことがある。何であんな態度をとられても好きでいられるのかわたしには不思議で仕方なかったのだ。修羅場から踵を返そうとくるりと振り向いたその瞬間だ。
「絢音」
「うええ、見つかったあ…ちょっ、小太郎!何ひとりだけさっさと帰ろうとしてんの小太ろ…うぐぇ!」
恐る恐る後ろを振り向くとわたしの制服の襟をばっちり晋助が掴んでいた。明らかに機嫌の悪そうな女の子もひとり。しかしまあ、どうも悔しいが良い乳をしてらっしゃる。
「おっせえよ絢音」
「はい?待ち合わせなんかしてましたっけ?ちょっ、腕をまわすな、仲良いと思われる」
「冷てえこと言うな、昨日も屋上でヨくしてやっただろ」
「あれは未遂…あ」
「信じらんない、そんな女のどこがいいのよ…最っ低!」
巨乳女子はヒステリックに叫ぶと、バチンと派手な音を立てて平手を喰らわせた、わたしに。
待て待て待て!なんでわたし?未遂だって言ってるじゃないか!つーか「そんな女」ってどういうことだ!乳か?乳のことか!
怒り狂うわたしの肩をぽんぽん、と晋助が叩く。なにそれ慰めてるつもりなのか!つーか原因あんた!ああ、世も末も末だ!

・・・
「まあまあ、そがに怒らんでもええちや」
「だって!なんでわたし?なんで平手!あーもう腹立つ!つーかあんたら何、なんでいちいちわたしがいるときに告られてるわけ!」
「なんだ、絢音はそんなことで怒っているのか」
「そんなこと、じゃない!しかも全員いっちょまえに断っちゃって」
「仕方ねェだろ、俺らにも好みってのがある」
「どうせ銀時はアレでしょ、巨乳でしょ、巨乳なら誰でも良いんでしょ」
「ばっお前、……あ何だ妬いてんのか?それなら安心しろー、貧乳だけど俺は絢音好きだぞ」
「貧乳だけど、は余計だ毛玉コラァ!」
右頬を腫らしてぷりぷりと機嫌の悪いわたしを馬鹿四人が慰めようとするが完全に逆効果だ。機嫌の悪い原因がこの馬鹿たちだけにそれが余計に腹が立つからわたしは奴らを振り切って廊下をずんずん歩く。何だよ貧乳の何が悪いんだよ、男ならこれからの成長を見守るくらいの甲斐性持てよコノヤロウ。
わしわしと辰馬の大きな手がわたしの頭を撫でる。ちょうど廊下をすれ違った女の子がそれを見て、チッと舌を鳴らした。ねえちょっと今明らかに舌打ちしたよね。わたしのもやしメンタルは先っちょの豆だけ育ってあのジャックをもうならせる巨大な豆の木になりそうだ。
「何それどういう状態」
「何よわたしが何をしたァア!」
「む、絢音が発狂した」
「うるせーな絢音、犯すぞ」
「もう昨日犯されかけたわ!」
廊下であるまじき会話をしているわたしと晋助を見て、辰馬が呑気に笑っている。と思ったらくるりと振り返って舌打ちをした女の子に暴言を吐いた。

「アッハッハ、ふざけんなよクソアマ」
「…辰馬、あれ昼間あんたに告った子」
「そうじゃったかー?よう覚えとらんぜよ〜アッハッハ」
アッハッハじゃないっつーの!ああ駄目だ、わたし近いうちに確実に殺される、抹殺される。

#02.maiden is blind about whom she loved

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