「え…なにここ」
自転車を漕ぐこと約40分。あそこ、と言って結構な体力を使って連れてこられた場所に自分でもびっくりするくらい低い声が出た。
「なにって、川原だけど」
「うむ、川原だな」
「川原だ」
「純然たる川原じゃ」
「……あんたたちは純然たるアホだ」

どうやらわたしとあいつらには決定的な温度差があるらしく、純然たるアホ4人は堤防の隅に自転車を停めると謎のテンションで草だらけの斜面を駆け下りていった。あ、銀時コケた。
「…絢音!はやく来いよ」
「言っとくけど今コケたのちゃんと見てたからね、爽やかに何もなかったふりしても無駄だからね」
「ーーーっ!」
「なんじゃ絢音はこじゃんとテンション低いのー。ほーれ川原ぜよ!」
「そんなんでテンション上がるか!ホームをレスしたおっさんじゃないんだっつーの」
「なんだ絢音、川原の何が不満なんだ、ん?言ってみろ1個ずつ直していくから!」
「ヅラのテンションの上がり方意味わかんねんだよ」
「ヅラじゃないかちゅ…もういいやヅラで」
「あきらめた!」
「お、おいそこはお前のこだわりだろ1回噛んだくらいで諦めんな、な?」
「いいよもうだってヅラじゃないって言ってもみんな聞いてくれないしぶっちゃけ最近いちいち訂正するのめんどくさいしそれだったらもうみんなの好きな呼び方で呼ばれた方が」
「ちょ、怖い怖い怖い息して息!」
なにこいつら何でこんなにテンション高いの?わたしがおかしいの?川原でテンション上がらないわたしがおかしいの?

「絢音、お前覚えてねえの?一応ここ俺らの思い出の場所なんだけど」
「思い出の…あ、」
「そうそうそれそれ」
「銀時が落ちてたエロ本を拾おうか拾うまいか散々悩んで結局拾ったものの袋とじが丸々何者かに持ち去られていて、拾うか迷ってた俺の時間を返せ!ってひとりで大声で叫んでるのを、終始わたしが黙って見てた川原だ」
「ああぁぁあちがーう!いや、違わないけど今思い出してほしかったのはそれじゃない!つーか何で黙って見てんだよ声かけろよ!」
「思い出した、確かどぎついSMものだった」
「それでもねえええ!何ちょっと余計なことまで思い出してんだよやめろこれ以上俺の尊厳を傷付けんな!」
「落ちてるエロ本拾う時点でお前の男としての尊厳なんざ毛ほどもねえよ」
「んだと高杉!落ちてるエロ本との遭遇は男なら誰だって通る道だろうが!」
「俺は死んでも拾わねえな、買う。良い物ってのは労せずには手に入んねえんだよ」
「なにそれかっこいいな!」
「主語エロ本だけどね」

あああもう疲れる、サボり編はわたしにボケさせてくれるんじゃなかったのか。わたしは鞄を斜面に放り投げてその横に寝転がった。制服と川原が似合うと思うのは、昔のドラマの影響だろうか。たしかに、青春っぽい。

「なあ絢音、思い出せってば」
「えーだから思い出したじゃんどぎついSMものだったとこまで」
「それはもういいんだよ!つーか仕舞え今すぐ仕舞えそんな記憶」
「じゃあなに」
「あれだよ、お前が変な男に絡まれてて」
「あーそっか。わたしが変な男に絡まれててわたしの貞操が危なかったとこを銀時たちが助けてくれた川原だっけ」
「あー惜しい。お前が変な男に絡まれててお前の貞操を狙って返り討ちにあったその男を俺たちが救命した川原だ」
「…あれ、なんか全然運命の出会いじゃないんだけど全然美しくないんだけど」
「うん、むしろお前加害者」
「嘘だ!」
「嘘じゃねえよ、なあ高杉」
「ちなみにお前はその時すでに処女じゃなかった」
「え、その情報いる?」
「ちなみに出会って3分で高杉に胸を揉まれていたな」
「ぎゃああああ!」
「ちなみにわしが初めて絢音の胸を触ったのは、」
「胸繋がりで話広げないでちなみにいつ?」
「ちなみに聞くのかよ」
「えっうそ、そんなはやく?」
「えなになに、いつ!」
「なぜに銀時が興味津々」
「触ったこともねェ奴は惨めになるだけだから引っ込んでろよ」
「んだとコラア」
ぺらっぺらな安い挑発に乗っかるのは銀時も晋助と同じレベルでオツムが残念だからだ。
頭の軽い者同士の頭の軽い言い争いに巻き込まれるのは御免被りたいところなので、火の粉が飛んでくる前に避難しようとしたのだけれど、
「見ろ高杉!俺は何の躊躇いもなく絢音の胸を揉める!」
「ぎゃあああちょうかっこいいけどできればちょっとは躊躇ってほしかった人として!」
「はっ、温いな。服の上からなんざ誰でも…」
「させるか!」
「まだ何も言ってねえだろ」
「いやわたしには読めた、確実に生でいこうとしてた」
「おいやめろ無駄に卑猥な言い方すんな」
「卑猥って言うやつが卑猥なんですう」
「いやこの場合どう考えてもお前が痴女だろ」
「おお卑猥からランクアップした」
「こーれ、おなごがそがに卑猥卑猥言うもんじゃなか。あんま卑猥卑猥言うたちまっこと卑猥になってしまうぜよ」
「連呼すんな、どんだけ卑猥言うんだよ」
「ていうかわたし痴女じゃないし。仮に痴女だとしても変態という名の痴女だよ」
「おいいいもうそれただのドスケベだろ」
「仮に痴女だとしても絢音という名の痴女だよ!」
「それただの痴女の自己紹介!」
「おかしいな、正解が見つからない」
「ぬう、高名なクマ殿を愚弄するか貴様!」
「はいはいごめ…っとあれ全ちゃんからメールだ」
何か知らんがクマ吉ファンだった小太郎を軽くあしらってぶるぶる震えている携帯を開くと、まさかの担任からのメールで、嫌な予感にわたしは思わず携帯を一旦閉じる。
「おい何閉じてんだ」
「だってサボりばれたとかだったらどうすんの」
「む、それはまずいな」
「わしら前科持ちじゃけん」
「今さらビビったってしょうがねえだろうが、貸せ」
サボりまくりの不良晋助はともかくわたしは一応真面目な生徒で通っているはずなのだ。そこまで肝が座っていない。他3人も似たり寄ったりのようなのだけれど、晋助はわたしから携帯を奪ってさっさとメールを開いてしまった。怖いもの見たさでわたしたちも恐る恐る携帯を覗きこむ。


from 全ちゃん
title 俺のジャンプ知らね?


『知るかァァァアアア!』
「ああぁぁああわたしの携帯!」
あまりに拍子抜けしたので思わず自分の携帯だということを忘れて他の4人と一緒にぶん投げてしまった。ていうか何お前らは遠慮なくひとの携帯ぶん投げてんだ。
「何こいつどんだけ空気読めないのてかむしろ読みすぎだよ」
「しかも件名に本文打っちゃうっていう中年層にありがちなベタなボケかましてんじゃねえよこまけえんだよ!」
「アッハッハ、こじゃんとびっくりしたのー」
辰馬が全く驚いていないような能天気な顔で笑う。銀時は汗だくだくだ。けれどそれも束の間。安心ムードをぶっ壊すように、河原に投げ捨てられたわたしの携帯がまた震えた。今度は着信だ。
「ちょまた全蔵だ」
「どんだけジャンプ見つかんねえんだよ」
「もしもし!ジャンプなら知らないよ!」
「ちょおまメール見たなら返信しろよ俺まだ今週号読んでねえんだよおおお!」
「ちょなにやばくないこの大人」
「まあ水曜日にもなってまだジャンプ読んでねえとそうなるわな」
「何でちょっと納得してんの」
「…ん?なんだ坂田たちもいんのか。あれ、そういや何でお前ら電話出んの今授業中だろ」
「! ぬかったァア!」
テンパりすぎてそのまま全力で電話をブチってしまった。これではもう現行犯を自ら晒したようなものである。
「ちょお前何してんの!何か適当に言い訳しとけよ!」
「元はと言えば銀時が変に全ちゃんに共感するからでしょうが!」
「仕方ねェだろ、ジャンプを愛する者としてのシンパシーだ」
「あーくそーまた呼び出しかなー」
「いんや呼び出しで済んだらえい方じゃな」
「まじでか」
あーあめんどくさいなあと溜息をつくと、性懲りもなく携帯が震えてメールの着信を知らせた。4人がめんどくさそうにこちらを見る。何だその目わたしだってめんどくさいよ。

from 全ちゃん
title 明日朝全員職員室集合\(^O^)/

「ちょちょちょ怖い怖い何で顔文字だけこんな浮かれてんの」
「しかもなんで朝?更にめんどくさいよ」
「朝ごはん奢ってくれるゆうんじゃなか」
「お前のプラス思考すごいな」
「ほいたら何して朝やか」
「放課後だったら俺らが逃げると思ってんだろ、掃除のことがあるしな」
「あれは絢音のせいだろ」
「えーっと、"晋助の左目は"…」
「はっ、ンな下らねぇ呟きなんざに俺は負けねェ」
「【拡散希望】」
「……あれは連帯責任だよな」
「あっさり惨敗したんだけど、どんだけ拡散こえーんだよ」
「お前拡散甘く見るなよ、一回拡散されたら30匹は居ると思え」
「後半ただのGだろそれ」
「さあわたしの濡れ衣も剥がれたところで」
「なにも剥がれてねえよ上からもう一枚分厚いの着ただけだよ」
銀時はもう憔悴しきっている。いい加減腹くくれよ毛玉。対象的にもうひとつの毛玉は能天気に口を利いた。
「まあやってしまったことはしょんないき、明日のことは明日考えるぜよ」
辰馬の能天気な笑顔に銀時も気が抜けたらしい。情けない顔でへたりと笑った。

わたしたちが出会った川原をあの日と同じ夕陽が染める。美しくはないけれど、きっと運命の出会いに違いなかったあの日を、わたしはずっと忘れない。

『ほんと、お前すげー強えのな』
『助けなど要らぬ世話だったな』
『いや…ありがと助かった』
『アッハッハ気使わんでもえいき、わしらはなんちゃあしちょらん』
『や、あのまま止めてくれなかったらわたしあいつ殺してたよたぶん』
『…あー…まーありえねえ話じゃねェよな…』
『もったいねェよなァ黙ってりゃいい乳してんのによ』
『ぎゃああああ!』
『高杉テメー!何会って3分で乳揉んでんだお前は!』
『おいショックで失神したぞ』
『アッハッハまっことおもろいおなごじゃのー』
『笑い事じゃねェぞどうすんだこれ』
『生娘でもあるめェし大袈裟な奴だな』
『そういう問題じゃな…え何お前そーゆーの分かるの』
『見りゃわかんだろ普通』
『普通わかんねぇよヒヨコ鑑定士かオメーは』
『……はっ!今、会って3分で乳揉まれた夢見た…』
『起きぬけに不幸な報せだがそれは夢じゃねえ、俺がこの目で見た』
『わ、わたしの貞操がー!』
『いやお前の貞操既に海の彼方らしいぞ』
『まじでか』
『何でびっくりしてんだよ』


「あー明日学校行きたくねえー」
「サボる?」
「エンドレスじゃき」

#10.endless and endless
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