前回までのあらすじ
船をコーティングするために立ち寄った島で突如現れた人間兵器によってバラバラに飛ばされてしまった一味。待ち受ける新たな敵に立ち向かうため、各々の場所で力をつけ再びあの島で集合することを誓うのだった――

「ってこれ本家のあらすじじゃねえか!コーティングって何だよあの島ってどこ!」
「あれ、違った?」
「全然ちげーよ!ただのサボり計画の話に大層なあらすじつけてんじゃねえ!全国のワンピースファンに謝れ!」

ともあれ。わたしたち5人は無事裏門で再集合を果たした。前回を回想している間に本鈴も鳴り終わり、授業中の校内は静まり返っている。あとは裏門を出るだけだ。歩き出そうとして、ふと大事なことに気付く。
「で、どこいくの」
「…………………………」
たっぷり3点リーダ10個分の沈黙。隣の天パはわたしと目を合わせようとしない。もう一人の天パが沈黙に耐えかねて口を開いた。
「おお?そういやあどこ行くらぁ決めちょらんかったのー」
「つか、銀時がどっか行こうっつったんだろ」
「どこか目的があったんだろう銀時?」
全員に注視されて銀時が小さくなる。あまり使い物になりそうにないその頭は前代未聞の勢いでフル回転しているらしかった。あ、なんか湯気出てる。なんて古典的な身体の構造してんだ。
「あっ、あそこにしようぜ!」
「今完全に『あっ』て言ったよね確実に今思い付いたよね。てかあそこってどこ、」
「あそこか」
晋助がまずいちばんにニヤリと笑う。辰馬も小太郎も思い当たる場所があるようで、うんうんと頷いて銀時の提案を承諾した。ひとりどこだかわからないわたしを置いて男共はさっさと歩き出そうとしている。

「ちょっと!あそこってどこ、」
「あ、俺チャリ乗ってこ。微妙に遠いしな。絢音後ろ乗ってけよ」
「へ、あ、うんありがと…」
お坊っちゃまの辰馬は車で送り迎え、家が少し遠い晋助と小太郎は電車通学、自転車を持っていないわたしは徒歩、チャリ通は銀時だけだ。彼らの言う「あそこ」まで歩くことになる残り3人には申し訳ないが、サボりに体力を使うなんてまっぴらだから銀時の申し出に甘えることにした。なんだかんだこいつらはわたしが女の子だということをかろうじて忘れていないようだから文句も言うまい。

「絢音、そんな毛玉の後ろより俺の後ろに乗れよ」
「……あの、高杉くん?君電車通学だよね、なんで自転車持ってるの?」
「借りた」
「嘘つけえええ!茨木って書いてあるじゃん、確実に茨木くんのパクってんじゃん!」
「パクってねえ借りたんだよ、あとで返す」
「世の中のジャイアンはみんなそう言うんだよ!酔っぱらいの『酔ってねえ』と同じくらい信用できないよ!」
「鍵かけてねえ奴が悪いんだよ」
「今ちょっとパクったって認めたよね」
ああ、誰だか知らないけど茨木くんごめん。わたしじゃこの黒い獣を止められないよ。次からは名前だけじゃなくて鍵もかけてね。

「絢音、わしの後ろの方が快適ぜよー」
「絢音、俺の方が安全運転だぞ」
「……あんたたちその自転車どうした」
「「借りた」」
「誰に」
「「茨木」」
「茨木くんんんん!ちょ、ほんと鍵かけて超かけて!何この子、なんで自転車3台もあるのにいっこも鍵かけてないの、馬鹿なの?」
「な、馬鹿は自転車パ…借りられても仕方ねぇよ」
「今『パ』って言ったよね」
「うるせえな、ちげーよ自転車パイナップルって言おうとしたんだよ」
「もしほんとにそうだったらわたしもう晋助と意思疎通できる気がしない」
「…いいからさっさと乗れ、先公に見つかんぞ」
「ちょちょちょ、待て高杉!絢音は俺の後ろに乗るんだよ、あとから来たくせにでしゃばんな」
「ちっ、じゃあ次の電柱で交代な」
「わしその次」
「ならば俺はその次だな」
「しゃあねえなあ、じゃ行くぞ乗れ絢音」


キキッ
「………」
「はーい交代」

キキッ
「………」
「はい交代」

キキッ
「………」
「ん、交た「歩いた方が速いわ!」
「何だよ、せっかく俺たちが平等にコトを進めてんだろ」
「街中にどんだけ頻繁に電柱あると思ってんのよ!5秒ごとにチャリ乗り換えるわたしの気持ちにもなれ!都内の電車のがまだ乗り換え余裕あるわ!」
確信を得た。こいつらは馬鹿だ。3回目まで突っ込むのを我慢してやったわたしはなんて寛大なんだろう。今ならお釈迦様になれる気がする。
「お釈迦様はそんな、都内電車の乗り換え事情を加味したツッコミはしねーよ」
「もういい。ちょ、銀時チャリ貸して」
「え、おい」
「走れ!オリンピックはまだまだ遠いぞ!」
「はい監督!……じゃねえよ!なにしてんのおまえ!」
「…オリンピックのためだもん、仕方ないよね。わたし…応援するから。向こう行っても元気でね…」
「なんでちょっとオリンピック目指すために渡米する感じになってんの?」
「絢音泣かないで、絢音が泣いたら坂田くん安心して逝けないじゃない(桂裏声)」
「おいなんか友達出てきたんだけど。つか逝けないってなんだ、俺死ぬの?オリンピックは?」
「安心しろ坂田…お前の分まで俺がヤってやるよ」
「片仮名ァァア!なにちょっと良い台詞っぽく言ってんだ、ただの寝取られだろーが!俺が死んだの良いことに彼女口説こうとしてんじゃねえよ!つか…ちょ、待って、俺まじでもう無理…」
全速力と全力ツッコミで銀時が早々にへばった。見たかわたしのいつもの苦労。
「ホントなんなのお前、生理の日はいちばん厄介なボケ手になんのな!」
「だから乙女の前で生理とか言ってんじゃ、ねぇっ!」
「のあ゙ーーっ!!」
「乙女だって毎回毎回バカ4人相手にすんのしんどいのよ!たまにはボケたいのよ!」
「…ウィリーかましてボケる奴を乙女とは言わねえよ」
「アッハッハ、そがにボケたいんじゃったらおまんも好きにボケたらえいきに」
「わたしがボケキャラになったらこの面子で誰が突っ込むの!札付きのボケでしょうがあんたたちは」
「札付きのワルみたいに言うな」
「や、言ってないし」
「え、そこの否定おかしくね」
「うるさいな、今日は女の子の日なんだよ、今日くらいわたしの好きにさせてくれたっていいじゃん」
「いや、女の子の日って年に一度の雛祭りだろ、お前の毎月来るじゃねェか」
「でも最近不順でさあ」
「そんな話聞きたくねえええ!」
「あくまでボケたいんじゃのう」
「ならば今日は俺たちがツッコミを買ってやればいいだろう。そもそも俺は堅物ツッコミキャラだからな」
「テメーはただの電波バカだ」
「しょうがねえな、テメーらひっこんでろよ、絢音に突っ込むのは俺だ」
「お前は別のもん突っ込む気満々だろーが」
「晋助わたしの話聞いてた?そんなんもれなく血だらけになるから。ベッドが殺人現場みたくなるよ」
「丁寧に描写すんな、何こいつらエンドレスボケじゃねえかすげー疲れる」
「普段のわたしの気持ちを味わうがいい」
「……まじでごめんなさい絢音さま」
「ははは!生理最高ー!」
「公道でチャリかっとばしながら大声でその台詞を言える奴を、俺はお前以外知らない」
「恐れ入ったか」
「…もうやだこの子」

頭を使わない馬鹿な話をできる仲間というのは貴重だと思う。基本はデリカシーのない男どもだけれど、気を使わないでいられるという点ではとても楽なのだ。調子に乗るのが目に見えてるから絶対に口に出してはやらないけれど。
友達というよりは仲間。そんな言葉がわたしたちにはぴったりなのだと思う。


「オイコラ、さっきまで生理最高とか言ってたのに何良い話っぽくシメようとしてんだ」
「ちょやめてよ、今ので終われたじゃん!何だったらちょっと涙出るくらいのモノローグだったじゃん!何邪魔してくれてんだこの天パ!」
「モノローグとか言うなし、今回どんだけメタフィクション?」
「その台詞が一番メタだからやめて!」
「ほら、もう着くろー」
「ていうかどこここ!」
「『はっ、ここはもしかして…!(桂裏声)』次回、驚愕のサボリ編完結!」
「ちょちょちょハードル上げんなって」
「絢音の入浴シーンもあるぞ」
「ないわ!誰が野外で風呂入るか!水戸黄門?!」
「馬鹿言え、黄門の入浴シーンなんか誰が楽しみにすんだよ、黄門の肛門ですかコノヤロー」
「お前は小学生か」
「次回第13話『サボリの末に(R-18)』お楽しみに」
「ちょ、なんか今R-18って聞こえたんだけど!違うからね、安心の全年齢対象だからね、つーかタイトル付けるの下手くそだなオイ。一昔前のトレンディドラマか」
「…」
「高杉、元気出しや」
「うるせえ慰めんな」
「つーかアレだな、やっぱツッコミは絢音だわ」
「うむ、やはり絢音のツッコミが一番しっくり来るな」
「ちょ、やーだーよーボケたーいー!」
「何やら高杉がしゃがみこんだまま動かんのだが」
「アレだろ、R-18っていうボケ以前にタイトルセンスの無さをつっこまれたから凹んでんだろ」
「何やら高杉が体育座りをしたまま「うん、放置で」
「「「御意」」」

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