またわたしは、この灰色の季節に侵されるんじゃないかと思っていた。あの町で手に入れた鮮やかな季節も、ここに帰ってきたらくすんで色褪せてしまうんじゃないかと。だけどその一方で、ここに居ればいつかは彼に会えるんじゃないかとも思っていた。この色の無い街にいれば、あの夏のようにまた鴉色の背中を追うことができるんじゃないかと。

けれどもやっぱりそう上手くは行かないまま季節だけが巡って、この街の灰色が一層際立つ冬の半ば、わたしは展示会で小さな賞をもらった。


アナザー・イエスタデイ / epilogue


照明を絞った空間の中で、自分の写真が仄かなライトを浴びて浮かび上がるように展示されているのは、何とも不思議な気分だった。来場者に混じって写真の前に立てば、夏が巡る。陽射しの束が肌を焼き、空は青く高い。蝉は懸命に命を削って叫び、向日葵が太陽に首を伸ばす。巡る季節はどれも同じだと思っていたのに、あの夏を他の季節の間に埋めてしまうことが、わたしにはできなかった。

街路樹が奥へと続く並木道。夏の光が木々の葉をくぐり抜けて木漏れ日になる。夏の初めにはその穏やかな光さえも拒絶した背中が、それが終わる頃にはゆらゆらと踊る葉影を背負って遠ざかっていく。優雅に、高慢に、淋しげに。


前触れもなくざわりと空気が動く気配がした。わたしの頭の後ろの方だ。振り向かずともわかる気がした。けれども振り向かずにはいられない気もした。
彼はわたしを焦らすのが上手かった。わたしをその気にさせるのが上手かった。
わたしがわたしについて、彼に敵うことは、何もない。
だけど、彼については違う。わたしは彼の、矛盾で飽和したその鴉色を表現する術を持っている。その警戒した猫のような表情を動かす言葉を知っている。
わたしは彼を、知っている。わたしだけが見た、あの鮮やかな季節の彼を知っている。

「遅いよ、臨也くん」

振り向いた視線の先、一枚の写真を指に挟んで鴉色が不遜に笑う。

120919 アナザー・イエスタデイ〆
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