蒸し暑い夏の昼下がり、快適とは言えない午睡から目が覚めたのはべったりと貼り付くような暑さを仰向けの上半身に感じたからだった。変な時間に寝たせいで目覚めが鈍い。何度もくっつきそうになる目蓋をどうにかこじ開けると、俺の肋のあたりに眩しい白のセーラー服と鴉色の髪が見えた。
「…何やってんだお前」
高い気温に水分を奪われた喉を無理やり震わせると酷使された舌の奥がひりひり痛んだ。夏休みにも関わらず何故かセーラー服の絢音は長い髪を鬱陶しそうに後ろに流して、あ、先生起きたの、なんて呑気なことを言って笑っている。
「なるとひなが先生が死んだち言いよるけん、様子ば見に来たんよ」
東京では聞き慣れない方言がこの島の住人である証だ。本来絢音くらいの年の子たちであれば、それほど方言はきつくないのだけれど、絢音は地元の柔らかな方言を好んで使った。それが変に田舎くさくないのは唄うように喋る彼女の癖のせいだろう。
「…そういうこと言ってるんじゃなくてだな…ていうか、そのなるとひなはどうした」
「ヒロ兄がケン太たちと海行くち付いていったよ」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫、美和とタマもおるし」
「余計心配なんだが…」
「前に危ないことはせんち先生と約束したけん大丈夫よ」
約束破ったら先生また泣くけんね、と絢音は俺の胸に顎を乗せたまま笑った。俺が答えないでいると、蒸し暑い畳の部屋はたちまち意味深な沈黙に包まれて、絢音は途端に大人びた顔付きで俺の首元に手を伸ばす。絢音の体重が乗っかっているところだけが異様に熱かった。頭の後ろで蝉がうるさく鳴いている。畳にくっついた背中がじわりと汗を滲ませた。暑くて、熱い。
「なあ絢音」
「うん?」
絢音が俺に乗ったまま起き上がり、俺の甚平の胸元を緩めていく。俺はそれを止めるでもなく見ていた。そんなことは今更だ。
「俺は頭冷やしにこの島に来たんだよ」
「うん、偉い人殴ったっちゃろ」
「なのに何でこう田舎の島の女子高生にうつつを抜かしているんだろうと思ってな」
絢音は手を止めて笑うとおもむろに俺に唇を寄せた。受け止めて、逃がさないように彼女の頭を引き寄せる自分に笑ってしまう。本当に、いつから女子高生相手にこうも必死になっていたのだか。
お互いの酸素と体温を交換し合う行為は暑くて熱い。唇を離して、再び甚平に手をかけている絢音の顔に貼り付いた黒髪をよけてやると、汗の滲んだ額が現れたので体を起こしてそこに口付けた。緩やかな風が絢音の長い髪を揺らす。
「…暑いな」
「うん…暑かね」

庭からは絶えず夏の匂いがする。太陽の熱、七日目の蝉、遠くで遊ぶ子供たちの声。

「っ……」
俺が外に意識をやっている間に、肩が出るくらいに俺の上衣をはだけさせて満足したらしい絢音の唇が今度は左の鎖骨に吸い付いたので、思わず裸足の指先がぴくりと反った。顔をあげた絢音が濡れた唇で笑う。
「ここが好いち先生は可愛いね」
「…高校生が生意気言うな」
「あはは、酷か」

彼女の制服に手を伸ばす。眩しいくらいに真っ白なセーラー服は色めいたこの空気には似合わなくてどこまでも澄んで見えた。されるがままなのが何だか癪で、綺麗な形に結ばれたスカーフを指で引っ掻けて解く。
ふと、絢音がひとりでここに来るとき決まってセーラー服を着ているのは、こうして背徳感に苛まれる俺を見たいからなんじゃないかと、夏と彼女の熱に浮かされた頭が下らないことを考えた。

120801
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