「真琴先輩は人が良すぎます」
「ええ、そんなことないよ」
「そんなことあります!」
俺の肩ほどもない小柄な後輩は、語尾を強めてぷりぷりと頬を膨らませながら隣をあるいている。ちいさな体を目一杯に使ってあるくものだから、肩よりすこし長い髪が足を踏み出すたびにきらきらと揺れる。つややかな焦げ茶の髪がまるで風にゆれる水面みたいだと思った。
「でもありがとう、半分持ってくれて」
「先輩がお人好しすぎてバカみたいだったから見てられなかっただけです」
「えーひどいなあ」
「…ほら、そうやってすぐ笑うから」
彼女はぷい、と顔をそむけてしまう。俺に言わせれば、彼女いわくバカみたいな俺を、こんな風に放っておけない彼女のほうが、ずっとお人好しだと思うけれど、口に出したらますます彼女はへそを曲げてしまいそうだったから黙っていた。

いつのまにか言葉を交わすようになっていた後輩の女の子は、こうして時々あらわれては、お人好しだの甘いだのとののしりながらも隣を歩いてくれる。はじめは変わった子だと思ったけれど、そのうち彼女の毒舌にも慣れてしまって、最近は俺のことで一生懸命に怒る彼女がほほえましくもあった。それがますます彼女のご機嫌を損ねる原因にもなっているわけだけれど。

俺があまちゃん先生のところへ用事があると知ったいろんな人たちから頼まれた荷物の山をほとんど奪いとるように半分持った彼女は、まだぷりぷりしている。怒っているせいなのかその歩みはずいぶん早足で、水面のようなその髪を目で追いながら俺は彼女のご機嫌とりに従事する。
「別にいいじゃない、どうせあまちゃん先生のところ行くんだしさ」
「そういう問題じゃありません」
「それに、可愛い女の子に手伝ってもらえてラッキーだし」
「…そっ、真琴先輩のそういうところきらいです」
そんな風に言いながらうつむいた彼女の、きれいな髪からのぞく肌のいろんなところが赤かった。どうしたらその顔を見せてくれるかなあと、俺は思いを巡らせながら職員室までの道をすこしだけ遠回りしてあるく。

130716 - なりそこないのロイヤルブルー
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