※テキスト

先輩先輩、雪、降らないスかね。隣で黄色い頭が嬉しそうに灰色の分厚い雲を見上げて言う。ただでさえくそ寒いのに降ってたまるかバカ、その背中をぶっ叩くと勢いのついた手のひらがじんと痺れて少し温かくなった。背中にもみじをつけられた黄瀬が半べそでわめく。やかましい。やかましいが、こいつは放っておいても自分で勝手に立ち直る分まだマシな方だ。
おい いい加減うるせえぞ。白い息と一緒に文句をひとつ吐き出しても、さっきから念仏のように寒さを訴えている森山は聞きやしない。こちらは年がら年中やかましい早川が頬と鼻を真っ赤にしながら、寒さで首から上を硬直させた森山を暑っ苦しく鼓舞していた。早川の馬鹿にでかい声に森山がぼそぼそと何か返している。小堀はやかましい森山に缶コーヒーを与えて黙らせることにしたらしい。隣の黄瀬は相変わらずどんよりとした空をアホ面で見上げている。そんな見上げたって雪なんか降りゃしねえよ、今日の降水確率は0パーセントだ。

いっこうに静かにならない帰路でため息をつくと、俺の心労は冬の空気のなかで白く濁って具現化された。灰色の空はずっと向こうまで続いている。首を伸ばしてその灰色の切れ目を探していると、ゆるりと吹いた北風に煽られたマフラーの毛糸が冷え切った鼻先にちくりと刺さった。ああ、くそ。寒い。
またひとつ白い息が冬の空気に消える。今日がこんなにも当たり前にいつも通りでいいんだろうか。いくら考えても答えは出ない。肩にかかる鞄の重さが歩みを鈍くさせている気がした。

せかいは一目散に冬へ向かう。黄瀬の待ち望む雪が降る日も近いだろう。森山が再びぐずり始めた。缶コーヒーはとっくに冷めたらしい。残りを押し付けられた早川に森山が余計なことを言ったので冷たい缶の中身は誰にも飲まれないまま近くのゴミ箱に放られる運命になった。最後尾についた小堀はもう黙って歩いている。
明日からもせかいは間違うことなく冬の中で、吐く息はやけに白くて空はどんよりと灰色なのだ。このせかいは何もなにも変わらないのに、俺たちだけが確かに終わりに向かっている。その瞬間を少しでも先に延ばすために俺たちは明日からあのコートに立つのだ。

ごみ箱を見つけた森山が早川から缶をひったくって投げ入れる。見慣れた軌道を描いた缶は中身をこぼすこともなくほとんど無回転で色とりどりの空き缶たちの中へ吸い込まれていった。ゴールネットが揺れる音が聞こえた、と思った。ボールが床で跳ねる音、一拍遅れて鳴る笛と歓声。ぞわりと身体を駆ける震えは寒さのせいではないはずだ。

121222 セカンド・ブレイク
勝っても負けても、これが最後の冬
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