閉じた瞼の向こう側で眩しい西日が遮られる気配がしたので、そろっと目を開けると金髪に橙色の光をありったけ反射させたヤマケンくんが居た。思いっきり逆光だけどたぶんその表情は芳しくないことだろう。
「…またアンタかよ」
ヤマケンくんが呆れたように言うのは当たり前で、ここは彼の学校である海明学院の校舎裏に位置している。つまり他校生のわたしが我が物顔で惰眠を貪って良い場所であるはずがなく、さらに質の悪いことにヤマケンくんにその現場を目撃されるのはこれが初めてではなかった。
「ヤマケンくん。おはよう」
「言ってる場合か」
「挨拶は大事よ」
「人の学校に不法侵入してるやつに諭されたくねえ」
くああっと欠伸をすると視界がぼやけた。ヤマケンくんのお説教はもう少し続くだろう。目の端っこに滲んだ涙を拭うともうひとつ欠伸が出た。眠い眠い。
「聞いてんのかコラ」
「ぐえ…」
欠伸の途中で参考書がたくさん入った硬い鞄をお腹の上にぽいっと落とされて女の子が出してはいけない声が出てしまった。さっきとは違う種類の涙を浮かべるわたしをスッキリした顔で見てヤマケンくんが隣に腰掛ける。
「あら、どういう風の吹き回し」
「…アンタってほんとヤな奴」
「お互い様でしょうよ」
欠伸混じりに言うと、ヤマケンくんがふっと笑うのがわかった。震える喉に合わせて金色の髪が揺れる。ああもうほんとうに、これだから。
彼はきっと知らない。わたしが毎度わざわざこんなところへやって来る理由も、方向音痴なはずの彼がいつもわたしの元へは迷わずやってくるのをわたしがどう思っているのかも。
だからわたしは恨めしい。二つ結びで鉄仮面のあの彼女を好きな彼も、彼女を好きな彼に惹かれてしまう自分も、恨めしくて痛々しい。わたしも彼も報われないのなら、神様はわたしたちを一体どうしたいんだろう。

「ねえヤマケンくん」
「ん」
「わたしと恋をしてみる気はないかい」
「は?」
ヤマケンくんは目を点にしたあと、何を思ったかこちらへ手を伸ばしてきて、きっとどんな難しい問題でも解いてしまう賢い手のひらと指でわたしの顔をぐりぐりと撫でまわした。特別小さいわけでもないのに、わたしの顔はその手のひらにすっぽりと収まってしまう。時折指の隙間から見える彼の口元は緩く笑っていた。
「しねえよ」
「ですよね」
「今はな」
ニヤリと笑ったヤマケンくんはもうきっと、わたしの気持ちに気付いている。

ああもうほんとうに、これだから。

120314 せかいは未だ終わらない
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