午後の部活帰り、ふと思い付いて国語準備室を覗くと、案の定この暑さにやられたくるくるの銀髪頭がソファの上でだれていた。そろりと侵入してソファに近づいてみるけれど、ダメ教師は熟睡しているようで反応もしない。夏休み中はクーラーを入れてもらえないのは準備室も同じらしくゆっくりと首を振る扇風機が生温い風を掻き回しているだけの部屋の中は立っているだけで汗が滲むほどだ。よくまあこんな暑い中寝られるものだと乗っかっている手のひらで表情が窺えない顔を覗き込むと、気配を感じたのか先生は僅かに身じろぎしてすぐにまた寝息を立て始めた。その首元からつうっと汗が垂れている。
どす、と。鞄を乱暴に床に落としたのに先生は起きなかった。財布くらいしか入っていない鞄は床に着地するとぺちゃんと潰れて、持ち手に付いていたストラップや人形がじゃらじゃらと一層やかましく響いた。暑い。この部屋で唯一の冷房器具の扇風機は先生の頭から足までなぞるように首を振って風を送っている。お腹辺りのソファの隙間に腰を掛けると、制服の背中に先生の体温を感じた。

ネクタイを締めた首元が暑そうだと思ったのは暑さでぼんやりとしている頭の端っこで、その首元に手を伸ばしたのは無意識だった。先生はいつもの白衣を脱いでいて、淡い青色のシャツは長袖を邪魔そうに肘の辺りまでたくしあげられている。ネクタイの結び目に指を掛けるとシルクが擦れる音がして、大きく緩められた首元はやっぱり暑そうに汗を滲ませていた。起こさないように先生の体の両側に手をついて、その首元に顔を寄せる。唇に当たる先生の体温と脈拍を感じながら目を瞑ると、脈絡無くセーラー服の背中に手を入れられた。
「ひゃ…!」
この暑さでセーラー服の下にはキャミソールも着ていない。不意打ちで素肌を撫でられてビクリと体を起こそうとしたのだがもう遅かった。
「オイオイ男の寝込みを襲う様な娘に育てた覚えはねェぞ」
「…生徒の制服の中に手入れてる教師に言われたくない、それから育てられた覚えもない」
「バカヤロウ教師ってのはな、学校という家庭で生徒を育てる親なんだよ、それからこの手は不可抗力だ」
「どんな金八先生よ」
「濁点を付けろコノヤロー」
「まあ先生なんて濁った金八先生みたいなもんだもんね」
「お前は俺で上手いこと言おうとするのやめなさい」
軽口を叩きながらもわたしは先生の上から退こうとしないし、先生もわたしに触れるのをやめようとしなかった。二人ともこの暑さに浮かされている。わたしでさえその自覚はあったのだから、先生はもっとだろう。頭の遠くで警鐘が鳴る。これ以上先生に踏み込んではいけないと。それでも。温い空気をかき回すだけの扇風機と、白衣を着ていない先生と、触れた二人の体温で滲む汗と、この部屋の中の全部をうだるような夏が隠してくれる気がしたから、わたしは頬に添えられた先生の手のひらに従ってその唇をできるだけ深く犯すことに専念する。先生のもう片方の手は、相変わらずわたしの素肌の背中を這っていた。
「…ガキ」
ふたつみっつ息を継ぐと先生はわたしのキスを評してそう言った。言葉とはちぐはぐに、その手はセーラー服の下にある唯一の布地に指を引っ掛けている。ゆっくりと首を振っていた扇風機が先生の手の隙間から温い風をわたしの背中に流し込んだ。
「…ガキならガキらしくしてろっつーんだ」
「先生」
「…お前が、手出す気にもならねえようなガキなら、こんなめんどくせえこと考えなくて良いんだよ俺は」
「わたしも…先生が、寝込みを襲いたくなったりしない先生だったら、もっといい人にあげてたかもしれないのに」
先生は 何を、とは聞かなかった。その代わりにものすごく悪い顔で笑うと、いまだ先生に乗っかったままのわたしの頭を引き寄せてとびきり深いキスで始まりの合図をする。セーラー服の背中で器用に片手だけで外された金具の音が、夏の暮れの準備室にやけに大きく響いた。

120801  
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -