「隊長さんは、俺なんかのどこがいいんですか?」
ポロリと零れた言葉に隊長さんは眉をつりあげた。
隊長さんとこうして放課後を過ごすようになったきっかけは何だっただろうか。そんなに大した事ではなかった気がする。過去を振り返り、思い出す。
そうだ、たしか、委員会が一緒だったのが始まりだ。
最初、隊長さんは俺のことをずっと「平凡」と読んでいた。生徒会長を好いていた隊長さんならあたりまえのことだったのだろう。俺もこの学校には慣れたもので、平凡という蔑称を気にする事なく受け入れていた。今もかわらない。
ところが、いつからか隊長さんは俺を俺の固有名詞で呼びはじめ、俺を好きだなどと公言するようになった。
どうやら本当に俺を好きらしく、毎日毎日飽きもせずに俺なんかに告白している。
俺はその度に断っているのだが、彼は未だあきらめていないようだ。
ぼんやり意識を飛ばしていると視界が隊長さんでいっぱいになる。低い身長を庇うために背伸びをし、じっと俺の顔を見つめ……訂正、俺の顔を睨む。
ゆっくり口が開かれた。
「……今、何て言った?」
「いや、俺なんかのどこがいいんですか?って……」
俺が言葉を零す度、隊長さんのきれいな薄い眉がどんどんつりあがっていく。おもわず語気が萎んだ。
しかし、これは誰もが疑問視するところだろう。
「だって、隊長さんが前好きだった人って、会長様じゃないですか」
「……まぁ」
眉間にぎゅっとシワを寄せ、可愛らしい顔の上に苦々しい色をのせる。その顔の意図もつかめないまま言葉をつづける。
「会長様っていったら、顔もすんごい整ってるし、家も大金持ちだし、勉強スポーツ芸術なんでもござれ。努力家だし、欠点という欠点も……まぁ性格は少し、あれですけど、他のすべてが有り余ってカバーしてるくらいじゃないえすか。この学校のミスタパーフェクト」
つらつらと会長に対するこの学校の一般論を述べていく。隊長さんも異論はないのか黙ってこちらを見ている。
「そんな会長から俺ですよ? 自分で言うのもなんですけど、顔、性格、体型、運動能力、成績、家の所得、その他雑事全部平均的な面白みのないやつですよ?
……親衛隊の隊員達も言ってるじゃないですか……『なんであんな平凡を』って」
よく回る舌に自分でも驚きながら更に言葉を続けようとしたところでチラリと隊長さんを見る。ぷるぷるしてるな、と認識した瞬間強制的に顔の位置を変えられた。
「ばかぁ!」
ざっくり言うと、殴られた。
可愛い顔して低身長でも隊長さんだって男なのだ。よろめき尻もちをついた俺の上にのっかって襟をつかむ。おおう。
「僕は吉木のそういうところが嫌い!」
「はぁ……」
「あのね! 顔も成績もお金もその他も、本人の努力次第でなんとかなるの! 平凡なんて、覆せる称号なの! というかなんで馬鹿にされてるのに見返そうとかしないの!? 馬鹿なの!?」
「お、落ち着いて」
「吉木は何もしない癖に自分なんかって……一個でも特出した何かができたら平凡じゃないの! この馬鹿!愚図!」
ひどい言われようである。
その後もさんざんと馬鹿だ愚図だと言われ続け、気が付けば俺の上で隊長さんが泣き出す寸前というとんでもない状況ができあがっていた。
「えええ、隊長さん!?」
「ばかぁ! 会長様より吉木のほうが、好きって言ってるのに、いつまでたっても信じないし、ばかぐずぼけすかたん!」
「いや、信じてないわけじゃ」
「信じてないもんわかるもん! ずっとなんで自分が好きかわからないって顔してるし、う、うー……!!」
泣いた!! とうとう泣かせてしまった! やばいこれ見られたら俺明日死ぬ!
「いや、待って隊長さん、それは本当に真剣に誰もがわからないんだって!」
「だって、吉木は優しいしまともだもん! 会長様みたいな俺様外道とは違うもん!」
仮にも好きだった人をそこまで言うか!?
とんでもない告白にぎょっとしつつ、隊長さんの言葉の続きを待つ。
「僕は、吉木に、性格さえ……中身さえよければ容姿もお金もそこまで関係ないって、教えてもらったの! 僕の好きな人の悪口いわないでよ、殴るよ!?」
「もう殴ってるだろうが!」
は、しまった。つい敬語をとってしまった。終わった。明日からの俺の学校生活終わった。
「いま、いま、敬語じゃなかった……? ね、敬語はずれてたよね?」
死にかけの俺と対照的に嬉しそうな隊長さん。ねぇねぇと顔をキラキラさせてせまってくる彼にもうなんかどうでもよくなってくる。
「なに、嫌だった?」
「そんなわけないでしょ! 嬉しい!」
「あーそー」
いったいどうしてこんなに好かれているのか。理由はざっくりと語られていた気はするが、しかし、どうしてこうなった?
「ね、吉木」
「なに?」
「ほんっとうに、僕は吉木のことが好きなんだからね!」
「……知ってる」
まあ、隊長さんはなにやら幸せそうだし、それでいいか。
とりあえず色々がんばることから始めようかなと思ってみたり。
平凡攻め企画様提出
[ 10/13 ][*prev] [next#]
back