餓鬼の頃から、こいつらの事は知っていた。と言っても、知り合ったのはたった数年前だが。
アメリカ、イタリア、アルゼンチンと母国は互いにかなり遠く離れていたが、ふとした切っ掛けで俺達は知り合った。しかし、それは俺の場合である。フィディオはもっと早い内から二人と知り合いだったし、マークとディランに至っては、幼馴染みだとか何とか。
だからこいつらの仲が良いのは知っている。それが、酷く歪な形だと言う事も。






「フィディオ……?」

「……ごめん、こんな遅くに……」

「そんな事より早く中入れ!」




ある夜、フィディオがアルゼンチン街にやって来た。その日は珍しく土砂降りで、宿舎でゆっくりしていた所だった。
傘も差さないでいたフィディオは、頭から爪先までずぶ濡れで、慌てて俺はフィディオを中へと入れた。
タオルを頭から被せて、着替えを渡す。シャワーを浴びて来いと問答無用で浴室に押し込んだ後、携帯を手に取った。遅い時間だったので、電話に出るかどうか不安だったが、3コール目で応答した。
とりあえず今すぐにこっちに来いと伝えると、あっちも何かを感じたのだろう、すぐに行くとだけ答えて電話が切れた。
フィディオが出て来る前に、何か温かい飲み物を用意しておこうと俺は溜め息混じりにカップに手を伸ばした。









「テレス!」

「来たか、マーク、ディラン」

「フィディオ…!」




呼ばれて来たのは、マークとディランだ。何かあれば、こいつらを呼んだ方が早いと言う事は、一年前位に学んだ。
シャワーから出て、髪の毛からポタポタと雫を垂らすフィディオの姿は、二人から見ても衝撃的だったのだろう。マークが滅多に変えない表情を歪ませる。
マークがタオルでフィディオの髪の毛を拭いてやると、フィディオはマークに抱き着いた。小さく肩が震えているのは、泣いているからだろうか。分からない。
マークもフィディオを抱き返す。そんなマークをフィディオごと背後から抱き寄せたのはディランだ。ぎゅうぎゅうと三人は固まって小さくなる。
俺はと言えば、出来上がったホットミルクをカップに注いでいた。全てに注ぎ終わった後、ローテーブルにカップを置くと、三人はのろのろと離れて、各々ソファに落ち着いた。




「ありがとう、テレス……」

「いや、それはいいが…
どうしたんだ?」

「……」

「……アイツだろ?」




マークの言葉に、フィディオの肩が小さく跳ねる。図星なのだろう。両手で持っていたカップを置いて、ゆるゆると首を横に振る。
その様子を見たマークは、ソファから立ち上がる。そのまま怒鳴るかと思いきや、勢いだけで立ち上がったらしく、開きかけた口を一度閉じた後、いつもと変わらない声色でフィディオに問い掛けた。




「浮気されたか?嫌われたか?暴力を振るわれたか?」

「そんなことっ!!………有り得ないよ…っ
悪いのは、全部俺なんだ…」

「……やっぱり、殴りに行って来る」

「Just a moment!
そんな事マークにさせられないよ!」

「このままなんて俺は嫌だ」

「ミーも嫌だけど、それはマークの仕事じゃない!」




ぎゃあぎゃあと言い争いを始めたマークとディラン。こうなると長い。しかしディランの押しに負けて、マークが折れる事を知っているので、恐らくディランが殴りに行く方向で決まるのだろう。
その間フィディオは何かに取り憑かれた様に暗い空気を醸し出していた。
俺は溜め息をつき、再び携帯を取り出そうとして、止めた。今回は、マークとディランの味方をしてやろうかと思う。
まぁ殴られる奴の事を考えると、同情の念しか湧かないのだが。




「…俺、どうしたら…」

「…まぁ、キスの一つでもかましてやれば良いんじゃないか?
あいらみたいにお熱いの」

「…ははっ、テレスがそんな事言うの珍しいね
そうしてみようかな」




そう言った所で、扉がノックされた。あぁ、今日は早かったな。扉を開けると、此処へ来た時のフィディオと同じ様にずぶ濡れの男が一人立って居た。
フィディオが目を見開いて男に駆け寄り、その頬に触れた。雨で濡れた肌は、きっと冷たいのだろう。フィディオが唇を噛むのが見えた。
自分がずぶ濡れな事に遠慮しているのだろう、フィディオに触れようとした手が宙に浮いて、落ちた。気にすることは無いだろうに。だがその事を伝える気はない俺も、意地が悪くなったもんだ。
男は上着を脱ぐと、フィディオの頭に被せた。そしてゆっくりと顔を近付け――あ、見えねぇ。成程、男は策士だった。絶妙な角度で、絶妙な位置。
まぁ多分キスしたんだろう。良かったなフィディオ。
余程此処に居るのが嫌なのか、早く話をしたいのかは分からないが、そのままフィディオの手を引き足早に去って行こうとして、止まった。
何かと思えば、ぎろりと睨まれた。俺が何かしただろうかと思い返すと、そう言えばフィディオに服を貸したんだと思い出して、笑った。
今フィディオが着ているのは、俺の服だからか。
何だよ、マークやディランの話を聞く限りじゃ、フィディオのベタ惚れだと思ってたのに。
俺に嫉妬しているじゃないか、










(甘いだけじゃあ駄目ってか)









→互いに依存しているマークとフィディオを書きたかったのに何故こうなった
もっとどろどろを目指した筈だった
テレスはこんないい奴じゃない……
因みにフィディオに渡した服は新品であると言う裏話



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