「しみる?」

「ん…平気」



理由(わけ)を知りたいとは何度も思ったけれど、それによって彼を傷付けてしまうくらいなら何も知らなくていいといつも思う。
バスタブに二人で浸かって、先生の大きな広くて優しくて暖かい背中をスポンジで洗う。大好きな先生の背中についた傷、古いのも新しいのもただひとつひとつを出来る限り優しく泡を撫ぜる。何故かそれだけで私の胸は苦しくて張り裂けそうだった。



「ウィーズリーの双子と、一緒に、罰則を受けたって?」

「うん。私はただそこにいただけ、なんだけど」

「そう、一緒に、いたからじゃないかな」

「そう、だけど。でもそれは先生が、」

「私、が?」




わざと「一緒に」という言葉を強調した先生、そしてつい先生を出してしまったことに多分彼は理由を悟っただろうと思うともう言い訳が効かないな、と思った。ねえ先生、先生はどうしていつも何でもわかってしまうんだろうね。私、先生に隠し事なんて出来ないじゃない。だから、狡いよ。


「淋しい思いをさせたね」

「ううん。でも、やっぱり知りたいです」

「…ごめんね、」



今日だって久し振りだった。何日かぶりに招かれた先生の部屋で、先生はいつもみたいに変わらない困った笑顔で私を見た。そして優しく抱きしめて「会いたかったよ」とか「愛してる」とか言ってくれた。すごく嬉しかった。けれど先生はそんな言葉の後に必ず「ごめんね」と言うから、私はその言葉が何よりも胸を締め付けた。おかしいよね、「ごめんね」が何よりも先生らしいんだ。先生の「ごめんね」はとっても辛いけど、でも先生の「ごめんね」が一番、先生の存在を私に焼き付ける。
先生が何故一ヶ月のうち何日か絶対に私を寄せつけないのか私は知らない。その何日か先生はどこで何をしているのか私は知らない。そしてその日々が終わった後、いつも傷だらけでとても悲しそうな顔で帰ってくるのか私は知らない。何故「ごめんね」なんて言うのか私は…知りたいけれど、知りたくなんかない。



「先生」

「ん?」

「少し、痩せましたね」

「そうかな」

「うん。髪もちょっと、白髪、増えたかも」

「うん」

「うん」

「なまえ」

「ん?」

「ごめんね、」



シャワーで先生の髪の泡を洗い落としている時、その音に掻き消されそうになりながら、また先生はそう言った。私はそんな先生の後ろ姿を、今は何だか小さく見えるその背中を、堪らなく愛おしいその背中を、抱きしめた。



「なまえ」

「うん?」

「胸が、当たってるよ」

「うん」

「交代しよう、僕が洗うから」

「うん」

「あんまり湯舟に浸かってると、のぼせちゃうよ」

「先生?」

「何だい?」

「私が先生をこうやって包み込んであげるから、だから、」




傷だらけの先生、苦しそうな先生、私の知らない先生。全部、包み込んであげる。先生の孤独を全部、だから



「大丈夫、だよ」




「うん、」



先生は優しく肩に回された私の手に口づけをして、やんわりとその腕を解放すると私と向き合った。先生は静かに涙を流していた。



「なまえ。お願いだから、こんな僕を、」

「うん」

「嫌いに、ならないで…」




先生は母に縋る子供のように泣いた。そして目を赤くして私を見上げて、優しくキスをした。おかしいな、いつもは甘い甘いチョコレートの味がするあなたのキスが、今日だけはあなたの涙でしょっぱいんだ。だけどそれもまた、堪らなく愛おしいだなんて。










(子供みたいな恋だって)


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