雪が降りしきるある冬の日。
「きゃー!寒うい!」
「大丈夫か?ほら、手貸せって」
「うん。わあ!暖かい!」
「だろ?ずっと繋いでていいぜ」
「うん!大好き!」
「俺も!」
(………)
「いやんダーリン!」
「あははハニー!」
うふふ、あはは…
「ねえシリウス」
「あ?」
「暇。ちょっとあんた湖で寒中水泳でもしなさいよ」
「…やだよ。死ぬだろ」
「あんたが死んだってあたしには、むしろ地球にはこれっぽちも関係ないから大丈夫よ」
「…そんな気がするよ」
湖畔にてなまえとふたりっきり。さっき通り過ぎていったバカップルを尻目に、なまえはさっきからつまらなそうに氷の張った湖に向かって石を投げている。お前…そんな湖に身を投げろと?
なぜこんなところでふたりっきりでいるかって?そりゃあ野暮な質問だ、簡単なことだだって俺達は付き合ってるからな!
…多分。
いや、今日は自分でもそれをはっきりさせたい。ことの始まりはこれだ。
俺が談話室に下りてきた時だった。
そこにいたのは何やら近距離で向き合って座っているなまえとリーマスだった。
「先生、あたしは病気ですか?」
「そうですね。難しい病気です」
「やっぱり…」
「でも大丈夫です、診察してみましょう」
「はい」
「じゃあ服を…」
「ってちょっと待てええ―――!!」
「あ、シリウスだ。よっ!」
「やあシリウス」
「よっ!じゃねえよ!やあ、じゃねえよ!何してんだよ!」
「何って…」
「お医者さんごっこ?」
ねえ、と顔を見合わせる二人…
おおおお医者さんごっこ…だと?ははは破廉恥だろ!
「馬鹿野郎おおお―――!!」
「わっ!ちょっとシリウス痛い!汚れる!」
「うるさーい!」
ということで、なまえの手を引っ張ってここに来たわけだ。
「なあなまえ」
「んー」
「お前さっき、リーマスと何してたんだよ」
「だから、お医者さんごっこ」
「何で?」
「……暇だったから」
何だ今の間は。そして真顔で「暇だったから」って。お前は暇ならほかの男と…そんなことをしてしまうような奴だったのか?ちょっと待て、そしたら俺はどうなるんだよ?何このポジション?俺誰?俺何?
「俺って、何?」
「シリウスは、何なの?」
「俺が知りたいよ…」
「変なシリウス」
とうっ、と弾みをつけてなまえは再び石を投げ始める。俺って、なまえに投げられている石のひとつに過ぎないのかもしれない。なまえに振り回されてばっかりだ。
「さっきリーマスと何話してたんだよ」
「色々」
「色々って…例えば?」
「シリウスのこととか」
「お、俺え!?」
「うん。シリウスってあたしの何なんだろうって」
「か、彼氏だろ…」
「…へえ」
「へえって…なまえはどう思ってんだよ」
「わかんない」
「はあ?」
「わかんないから、あたし病気なんだと思ってリーマスに診てもらってたの」
「それ間違ってるよ」
「そうかな?リーマスはノリノリだったよ」
「あいつ危ないとこあるから。これからは気をつけろよ」
「うん。シリウスもね」
「え?俺?」
「リーマス、テレパシー使えるから今言ったこと多分伝わってるよ」
「まじかよ知らなかったよ。教えてくれてありがとう」
「どいたまして」
「言えてねえよ」
雪が大分降り積もる。俺達の頭も知らないうちに真っ白だ。このままなまえが、雪に溶けちゃいそうだ。何か、俺じゃ掴めない。俺じゃ駄目な気がする。
「あー」
「何だ?どした?」
「何かすっきりした!」
「何で?」
「シリウスがあたしの彼氏だってわかって」
「………え?」
「うん、よし。寒い、帰ろう」
「お、おう」
…まあ、いっか。なまえはちゃんとここにいるし。俺の隣に。
「さ、寒いな。手繋ぐ?」
「え、やだよ。汚い」
「…何か矛盾してね?」
「は?どこが?」
好きだと伝えたい
(リーマス先生の診察カルテにて)
(病名:恋の病)
(あはは、シリウスめ。覚えてろよ)(ブラック・リーマス先生)