白いワイシャツに細い指でするり、とタイがかけられる。立てられた衿を元に戻すと本当にさらりとしたプラチナブロンドが肩に垂れた。目を細めてタイを結ぼうとすればその長い睫毛が影をつくる。ああ、溜息が出そうだ。この男はなんて絵になるのだろう。そんな横顔をベッドの中から覗く。シーツをたくし上げ、深く息を吸う。


「もう行っちゃうの?」


いきなり声をかけられたその男は少し驚いたようにこちらを見るとすぐにそのアイスブルーの瞳を細めた。そうそれは愛しい人が悲しそうな声を出し、心から暖かくなったようなそんな表情―――では全く無く、一言で表すならば、彼は呆れていた。


「妙な言い回しをするな」


私はべ、と舌を出す。ルシウスは溜息をつく。そしてまた私はシーツに埋もれる。…彼の匂いに包まれる。




今日は休日で、更にホグズミードの日だった。私は友人達と出かけるつもりだったが、体調が悪くなり今日は遠慮しておいた。元々低血圧であったから、まあしばらく横にでもなって休んでいよう、と出かける友人達を送り出し、寮の談話室に戻った。ら、急に貧血が押し寄せた。力が抜け、腹の内側で何かがうごめき、崩れ落ちる。すると後ろから「なまえ?」と聞き覚えのある声がした。ルシウスだった。どうやら彼も今日は学校に残っていたらしい。彼に事情を簡単に説明し、少し休めば大丈夫だからとは言ったものの、「こんな所で休まれてわ」と言った彼が私を抱えてすたこらと自分の部屋に運んだ。テキパキとその育ちの良さを感じさせる彼の処方により気分もよくなる。そして一眠りし、今に至る。あ、もう夕食の時間らしい。だから彼はタイを締め、部屋にいる楽な格好から正装に戻った。大広間に行くため。



「お前は夕食どうする?」

「んー、あんまり食べる気しないなあ」

「何か食べた方がいいんじゃないのか?」

「わかってるけどさあ」



動くの面倒だから、と言うと彼はまた壮大に溜息をついた。でもなんだか、その溜息もいいんだよな、とか思う私は重傷だろうか?きっと彼に構ってもらえることが嬉しくて嬉しくて、彼の一言一言が、嬉しくて嬉しくて。表情一つ一つが、嬉しくて嬉しくて。

同じ学年で同じ寮で、ずっと一緒に学校生活を送ってきたのに、いつの間にかルシウスは私をおいていった。と、思っている。いつの間にか首席で、監督生で、女子生徒にチヤホヤされて…
気づいた時には、私とルシウスの間にはすごく高い壁が出来ているように感じた。というか、ルシウスがその壁の上にいるようだった。
でもそれでも、時々こうやって昔と変わらず私に接してくれる。意地悪で自信家だけど、優しくて頼りになる。そんなところは私しか知らない。知らなくていい。こんな彼を独り占めできることが、私の特権なのだから。




「わかったわかった。では部屋に持ってこよう」


降参とでも言うのか、彼は両手を肩まで上げて少し眉を寄せた。でもすぐ呆れたように笑って、片方の手を私の頭に乗せ、優しく撫でる。


「もう気分はいいのか?」

「うん大分、お蔭さまで」

「そうか」




ふふ、と笑えば彼も口元を上げる。なんか幸せ。くすぐったい。でも暖かい。


「あまり、心配させないでくれよ」


やっぱり呆れたように、でも優しくルシウスが言うもんだから、顔から火が出るかと思った。そして彼はそんな私を見て、変わらない笑顔で笑った。




なしじゃいられない
じゃなきゃ駄目

(Romance syndrome)






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