大広間を出ると後ろから名前が呼ばれて振り返ると彼がいた。彼は笑顔で私の側まで来るとすごくすごく近くまで顔を寄せてくる。ち、近い近い!キスされる!と目を固くつむる。そんな思いとは裏腹に彼は耳元で呟く。「ちょっと来て」すごく低い声だった。そのまま彼は強い力で私の腕を引き、誰もいない空き教室でやっと止まった。
「り、リーマス!腕、痛いよ!」
「君がいけないんだよ」
「わ、私?どうして?」
振り返った彼はさっきの笑顔をどこにやったのか、鋭い眼差しで私を睨む。私よりずっと背が高いもんだから必然的に見下されているように。すごく、すごく怒っている。
「君さ、さっき他の男と喋ってただろ」
「そ、それが何?」
「何だって?そうやって君は僕がいないうちにこそこそ他の男に近づいているんだね」
「そんなわけ…!」
「それに僕がいるのに気づかなかっただろ」
「…リーマス?」
「僕が名前を呼ぶまで気付かないなんて、さぞ楽しい時間だっただろうね」
「ちょっと、リーマス落ち着いて!」
「君が悪いんだよ、」
そのまま彼は私を壁に押し付けた。片手で私の腕を頭の上でしっかり掴み上げて、もう片方の手で私のタイを乱暴に外し、ボタンを外した。
「リーマス!ごめん!謝るから!」
「何に謝るんだい?本当に自分が悪いと思ってる?」
「ごめん!リーマス許して!リーマスに嫌な思いさせて本当にごめん!」
「…………」
彼はすごく悲しそうな顔をした。今にも泣き出しそうな、とても切ない顔だった。その顔はまるで母親にすがる小さな子供のよう。彼の力がやんわりと緩められた。
「私が好きなのは、リーマスだけだよ」
「うん…本当はわかってた」
「うん…」
チュッ
彼は涙を一筋流して私の開けた襟から覗く鎖骨にキスした。酷く優しく、切ないものだった。
「ごめん…だけど、好きなんだ」
もう彼を離したくないと、そう強く思った。
鎖骨にKiss