「社長、」

「何だ」

「ほんとに、私が…?」

「君がやらなきゃ、誰がやるんだ」

「でも…私、こんなこと…それに誰かに見られたら…」

「やるんだ。これは社長命令だ」

「っ…はい、」




とある大手企業会社の社長室。女と男が二人きり。一人は部屋の持ち主、この会社の社長セブルス・スネイプ。やや険悪そうな顔つきと無愛想な性格だが頭脳は明晰でこの歳にして相当なやり手である。もう一人は彼の秘書であるなまえ・みょうじ。こちらも日々社長をサポートする重要な人物だ。



「んっ…く、はあ…」

「………」

「や…社長っ」

「…何だ」

「そんなっ……どこ触って、く…」

「ふ、見応えがあるな」

「やっ…だめで、す…」

「早くしなければ誰か来てしまうぞ」

「わかって……で、も…ん」

「君が誰も来ないうちに、と言ったんだぞ」

「んあ……ああ!」





ばた――――ん!




「痛たたた…」

「またか」


やれやれ、とでも言うように社長はため息をついた。私は腰を持ち上げてパタパタとスカートを叩く。こんにちは始めまして。秘書のなまえです。
お聞き苦しいものを聞かせてしまいましたね!申し訳ございません。只今…電球を取り替えている真っ最中です。


「これじゃあ仕事も出来ん」

「社長が私の足をつんつんするのがいけないんでしょ!てか自分で取り替えてくださいよ!社長の方が身長こーんなに高いんだから!」

「みょうじ、何度も言わせるな。私が出来るわけないだろう」

「ううっ…」

「汚れる」

「ムキー!」




社長室の天井は、というか私にとって天井はすごく高いです。今もソファからでは届かないので社長椅子に爪先立ちで頑張っていたんですが、私のプルプル震えている足をおもしろ半分でつんつんする社長のせいであと一息!のところで失敗してしまいました。社長の意地悪!サディスト!独活の大木!


「何だと?」

「ななな何でもありましぇーん!」


社長は変なところで神経質なので(おっと!また怒られちゃう)信用しているごく少数の人しか室内に入れたがらず、必然的にこういった雑務は私がやる羽目に。こういうのって普通は業者さんがやるんだけどなー。あー肩凝った。特別に給料払ってもらわないと。それでなければボーナス奮発してほしい。


「ちょっと休憩でーす」

「コーヒー」

「はあい」


ぽとぽととコーヒーメーカーから私のぶんと社長のぶんのコーヒーを入れてブレイクタイム。ふと窓の外を見るともうそろそろ夕方です。…ああこれじゃ本当に仕事できません。デスクライトだけじゃ暗いですよね社長。

「よし!」

さあ気合いを入れ直し再開!ちょっと固くなった肩を回して電球を片手にさあ椅子に上って。


「貸せ」


あれ?電球奪われた。

「社長?」

「君に任せてたら日が暮れた」

「いやまだ暮れてないですよ!」

「似たようなもんだ。それに」


危なっかしくて見ていられん。ぶっきらぼうに言う横顔。ほらやっぱり社長なら楽々届くじゃないですか。出来心というかお返しに足をつんつんしてやろうかと思ったが止めた。きっとお説教される。若しくは減給される。この人ならやりかねない。





「おお!明るくなった!」

「うむ」

「お疲れ様です」

「ああ肩凝るなこれ」

「でしょー!私もパンパンです!」

「結局君は何もやってないだろ」

「そ、それは言わない約束です!」

「ふん」



鼻で笑った社長を睨みつける。社長も私を睨みつける。それもつかの間、どちらともなく思わず笑ってしまった。
時刻は夕暮れ。日は地平線にゆっくりと姿を消したらしい。室内の柔らかな光が私達を照らしている。


「疲れた。帰る」

「えー早いですね!お疲れ様でした!」

「みょうじ」

「はい?」

「ボーナスだ。飯行くぞ」

「え?やったー!ご飯ご飯!」




社長と秘書とは思えない二人の物語。



YES,Sir
(それこそスパークリング)


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