「おい見ろよリーマス!ジェームズが大イカに絡まってら!」


ちょうど小高い岡を登っている最中だった。その無駄に馬鹿でかく品のないゲラゲラとした笑い声が僕の鼓膜を揺らした。何を考えるわけもなく僕は反射的にUターン。来た道を戻った。
天気のいい昼下がり。気晴らしに湖で読書をしようと『闇の魔術全書第12巻ノンストップ鼻水の魔法等』を小脇に抱えて歩いていたがもうそんな気も失せた。あんなやつらにお目見えするくらいならルシウス先輩の髭剃りになったほうがマシだ。いややはりそれも何とも屈辱的だ。



そしたら発見してしまったんだ。
穴が空いていた。

目の前に大きな穴が空いていた。そこは原っぱの真ん中ですっぽりとそこだけ地面が無くなっていた。これだけならまだいいんだどこからか何億光年と遠い宇宙から隕石でも落下したのだろうとかそんな風に考えられるから。だが問題はこれだ。


「すいませーん。誰かいませんかー」

あろうことか落下したのは宇宙人らしい。先程から引っ切り無しに穴の底から声が聞こえる。くるくると辺りを見渡すが僕以外誰もいない。仕方なく穴に近づいて覗き込んだ。…人だ。


「あ、よかった誰かいた」

「…何だ」

「助けてください出られなくて」


その女子生徒は真っ黒だった。いや肌は白い。ただ泥だらけで顔まで汚れている。自分の背丈の二倍以上あるであろう穴の底から眩しそうに僕を見上げている。ふにゃふにゃと笑いながら。僕はため息をついた。わざと怪しいものを見るような目をして彼女を睨みつけたけどそんなのお構い無しというばかりに笑ってぴょんぴょん跳ねている。…なんだこいつ変な奴。


「杖持ってないのか」

「ないでーす」

「お前それでも魔女か」

「やだなー人間自然体が1番ですよ!」


こいつ馬鹿なのか。僕は持っていた本を横に置いてローブから杖を取り出した。穴の底から「おおー」とかかなり馬鹿げた声が聞こえる。こんな魔法、初歩の初歩だ。彼女に真っ直ぐ杖を構えてひとふり、「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」ふわり、と彼女の体は持ち上がり僕の横にすとんと降りた。


「ありがとうございました」

「…ああ」


汚れた服をぱっぱっと叩くようにしてさらに汚れた顔をくしゃくしゃにして彼女は笑った。よく見たら赤と金…ああ!助けなければよかった。グリフィンドールは馬鹿ばっかりだあいつらを含めて。


「蝶々追い掛けてたら前見てなくて、きづいたら穴の中で」

「………」


ほら、馬鹿だ。汚れた手で顔を拭うからなお一層汚れている。さらに「わ!目に砂が入った!」とか言って騒いでいる。呆れた、ため息が出る、こいつ多分ルシウス先輩と同じくらい馬鹿だ。


「…ほら」


僕は自分のハンカチを取り出して彼女に押し付けた。「え?いいの?優しー」とか言って彼女はごしごしと顔を拭いた。絶対、洗って返せよそんなに汚して。


「あなたスリザリンでしょ?」

「それがどうした」

「以外と優しくてびっくりした」

「…別に優しくしたわけじゃない」

「えへへ」

「…何がおかしい」



ふにゃふにゃ笑いやがって全く会話にもならない。これで何度目になるか僕はまたため息をつく。



「あたし穴に落ちちゃったみたい」

「は?それなら僕が今」

「違うよー」




泥を拭った顔はやっぱり白くてふにゃふにゃとした笑顔はよく見たら悪いもんじゃない。太陽に照らされた顔はよく見なくても悪いもんじゃない。


「君という穴に落ちました、セブルス・スネイプ君」

「…どうして僕の名前を」

「さあ?」



こいつ、馬鹿じゃないのか?
取り合えず名前くらい教えろこれじゃフェアじゃないだろ。





(恋 は 落 ち る も の)
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