気怠い
そう思って切り上げた夕食寮への帰り道月明かりが照らす廊下人気のない曲がり角一筋の夜光虫水面にはほど遠い。
気怠い
今宵は赤い月だ。
「ルーピンくん、」
人の声がした。それは確か夕食の時に見かけなかったあいつの名前で呼んだのは甘い女の声。あいつが好きそうなチョコレートとふわふわのマシュマロを足したみたいなそんな声。物陰に二人はいた。足元に伸びた二人分の影を月と共に睨んだ。
「今度のダンスパーティー、よかったら一緒に出ない?」
「あーいつだっけ?」
「来週よ、来週の週末」
来週の週末だって?
「君と行きたいのは山々なんだけど残念だな」
何言ってんだか。あんたは頭ん中まで溶けてるそして彼女も溶かす。まるで連鎖反応。
「どうして?」
どうして?
どうしてだと思うの?それはねあなたには関係の無いことなのよ。
「もし一緒に行ったら、きっと君のこと、食べてしまいたくなる」
チョコレートがマシュマロを溶かす。
ちゅ、とリップノイズが聞こえた気がした。
「可愛いね。あんなこと言ったら顔が真っ赤になってた」
くすくすと笑いながら月光に横顔を照らされた彼は目を細めて笑う。その表情を睨みつけると「?」という顔をして首を傾げた。
「嘘はついてないだろ」
確かに。来週の週末は満月だ。
「おおかみにんげんが」
「よせよ」
笑っていられるうちが花だ。彼のそのしなやかな指は切り裂く爪を持ち白い歯は食いちぎる牙となる。それを彼は「醜い」「怪物」という。私もそう思う。
でも本当は狼の彼は怪物ではない。誰にでも優しくてしなやかな指で肌に触れ牙を隠した口でキスをする彼こそ本物の怪物、ではないだろうか。
「お腹空いた」
食べてないんだ、急に呼び出されたから。と笑いながら何故か私によってくる。後ろには厚い石の壁と数センチとなるところには、怪しく笑顔を照らされた、怪物。
「食べていい?」
「リーマス、」
するり、とタイを外されぷちん、ぷちん、と二つほどボタンを抜く。冷たい指先、鎖骨を撫でる。首元に顔を埋めながらおかしそうに彼が言った。
「僕は、狼だから」
顔を真っ赤にしたという彼女にも同じように迫ったのだろうか。酷く優しい愛撫が苦しい。二つの影は今は一つ。そんな私達を今度は月が睨みつけた。
暗 が り で
狼は
首筋に噛み付いて
息を止めます